interview: エイドリアン・コーカー「アーティスト/レーベルオーナーの語る実験音楽/映像のための音楽、そして英国文化産業の危機」


作曲家Adrian Corker

――アーティストとして、あなたが豊かな音楽的背景を持っていることは明らかであり、それはあなた自身の映画音楽やテレビ音楽からも確かに見て取れます。メディアでも高い評価を得ている「Tin Star」のスコアのエピソードを教えてください

 以前から映像用のスコアを書いていたが、ローランド・ジョフRoland Joffeの息子であるローワン・ジョフRowan Joffe のおかげで「Tin Star」の作曲の仕事を得た。 作曲にかなりの自由を与えられたし、多くの演奏家やアンサンブルにアクセスすることができた。

 最大の人数は確か28人に、そして多くは12人のアンサンブルのために書かれてる。全ての音は一から作り、録音されている。オーケストラの曲のモックアップ用にのみサンプル音源を使うこともあった。けれども、「Tin Star : Liverpool」の中の一部では、ロックダウンのために演奏家を部屋に集められず、サンプル音源を使わざるを得なかった部分がいくつかあったのは確かだ。「Tin Star : Liverpool」 では、テープ・プロセッシングがかなり使われていて、以前のシーズンよりも多くのパーカッションを使用した。フィールドレコーディングをパーカッシヴに使うこともあった。電子機器はロシア製のシンセサイザーや古いオシレーターを使った。音楽はかなり広範囲に及んだ。このシリーズでは様々な監督と一緒に仕事をしているが、皆多様な音楽的アイデアを持っていた。多種多様なムードに移行するのだが、ブラックユーモアや多くのヴァイオレンスもある。人の一生より長い時間を示す音楽には、時折そのようなものが含まれることになった。

 私はメロディーのあるテーマを書かなければならなかったにせよ、「Tin Star」のおかげで実験的で無調な音楽や微分音を使った音楽を書くことがでたし、現在ロンドンにいる素晴らしい演奏家たちのグループを定期的に集める可能性を探ることができた。

Tin Star Recording Session (C) Cristiano Diamanti

――映画音楽/TV用音楽と、あなたがキュレートしているような、より演奏を主体した実験音楽との間をどうすれば上手くハンドリングできるのでしょう?エンニオ・モリコーネなどが良い例かもしれません。映画音楽は多くの制約や条件面での妥協があるかと思いますが、あなたのアーティストとしての意見やビジョン、長所があるのであれば。

 良い質問だね。私が映画やテレビのために音楽を作っていることで、実験的な音楽シーンからは商業的すぎると思われ、映画やテレビの人々からは実験的すぎると思われることがある。私は映画音楽がかなり実験的だった時代に育ったが、その頃の音楽は今でも非常に人気が高い。でも今は、ポップミュージックやエレクトロニックミュージックの商業的な部分から出てきているものが多い。それはそれで良いにせよ、それ以外の音楽にも興味があるんだ。

  私の経験上、一緒に仕事をしている人たちの信頼を得れば、妥協する必要はないと思う。予算や時間面での制約があるにせよ、実験音楽と同様に商業音楽と呼ばれるものにおいても、自分の声を出すことが重要だと思う。

  一般的に、オーケストラやアンサンブルの音楽を数時間で録音しなければならないし、演奏家とリハーサルをする時間もないので、チャレンジングなこともあるが、それは悪いことではない。映像に合わせて作業することで得られるフレームワークを得て、ティム・ロスのような俳優の演奏に合わせて作曲することは素晴らしい経験であり、実際に好きなことなんだ。

 自分の声を薄めないための実践的な技として、自分の音楽をできるだけ早い段階でテンプミュージック(註:作曲家への指示として映像にあてられる仮音源)として入れておくといいと思う。エディターによって映像のためにいくつものテンプミュージックが当てられることを避けることができるんだ。エディターや監督とのコラボレーションは本当に楽しかったね。私は映像から離れた所で作曲しているのだけれど、エディターが音楽を当てる場所として、驚くべきところを選択すること。それを発見するのが好きだ。

(映画音楽ではなく)自分の音楽を書くときは、それは何なのかを自問自答しながら作っているので難しい。一般的に私は音楽作りを非常にゆっくりと練り上げて進行させるので、その時に誰かの耳に入るというのはいいことだと思う。

――この10年、20年の間の技術革新は映画音楽にどのような影響を与えてきたと思いますか?

 デジタル技術は僕にとって重要なものだが、それを僕の音楽を決定づけるものとは定義づけたくない。全てはコンピュータ上で完結するが、コンピューターの外にも多くのプロセスがある。私はまた、ギガバイトのサンプル音源に接続された、キーボードを持っている作曲家の一人ではない。私はもう何年もアンサンブルのための音楽を書くときにキーボードは使っていないんだ。私の音楽のほとんどは、実際の演奏を伴う実空間で制作され、デジタルだけでなく、アナログや音響的なプロセスを用いている。また、演奏家が自分の音楽性を表現するためのフレームワークを作ることができるような作曲プロセスも好きだ。私が音楽家のグループ演奏で気に入っていることの一つに、多くの個々の声を一つにまとまて一つの音を作ることがある。デジタル環境では決して得られない、微妙な不完全さの層が相互に作用しているのだ。

 しかし一般的に言って、テクノロジーはたくさんの曲を書くとき実務的に楽にさせてくれるとは言えるだろう。私がやった最初の映画は、映像に音楽を書くためにビデオプレーヤーに同期されねばならなかった。それは複雑で時間を費やしたが、現在は、QuickTimeでコンピュータ上のウィンドウで問題なく同期することができる。