
現代は「Re」の時代である、と嘯きたい。少なくともそう感じざるを得ない状況が続いている。
資本主義が支配する現代において、文化はその求めに従い、何度もリメイク(remake)、リバイバル(revival)、リブート(reboot)される。過去の名作映画やヒットソングがリメイクされ再び市場に現れる。例えばアメリカでは、リメイクブームの旗手であるディズニーが過去のアニメ映画をミュージカル・実写に書き換えて何度も市場に出す。それは日本においても例外ではなく、名作文学はアニメ化され、過去にヒットしたデジタルゲームはリメイクされて様々なかたちで現れ、そういった作品群の市場規模や経済効果はかつてないほど巨大で強力だ。リメイクブームは、文化作品に限ったことではない。手に取れるあらゆる商品の購買理由は、いまやノスタルジアに支配されている。商品を売り出すには、既存顧客の維持が不可欠である。こうして、名作スポーツ車の復刻、名作チェアのリニューアルと、常に市場の話題には安心と郷愁がつきまとう。
「Re」は、何も商業に限ったことではない。近年の「SDGs」という思想は、資源やエネルギーの「再生可能性(renewability)」を求める。国家や企業は持続可能性を合言葉に資源の有限性を強調し、うわべでは目標達成に向け努力しているように見せながら互いに責任(responsibility)を押し付けあうことで、政治経済的な勢力図に有限性のパワーゲームを導入しようと画策している。また近年、アフガニスタンでのタリバン復権、ロシア・ウクライナ間の戦争や、中国による香港司法への介入など、一度は解消されたかに見えたかつての闘争状況が再
開(resume)されている。
こういった対立を含め、人類の歴史全体を繙けば、ある現象は一度起こってしまえば、何度も形をかえながら反復(repeat)していることが分かる。「歴史は繰り返す」というわけだ。
ファッションやヘアスタイルの流行が幾度も復活(revival)するように、我々は一定の円環の上を循環している。ということは、「Re」などと取り立てていうまでもなく、我々は常にある周期(cycle)の中をめぐりめぐっているのだといえる。
とはいえ、現代がこれまでと違う点は、今人々は賢くも、自分が繰り返しの只中にいるという感覚にかつてなく冷(覚)めているということである。それを裏付けるように、二〇一一年以降、主人公がある時間軸の中から脱出できずに、同じ時間を何度も繰り返してしまう「ループ」ものの作品が、『魔法少女まどか☆マギカ』を皮切りにブームになった。同時代に『資本主義リアリズム』を著し二〇一七年に自殺してしまったイギリスの評論家マーク・フィッシャーが感じていたように、新しいものはもはや生まれてこず、なにかに蓋をされて管理され、文化的・社会的に脱出できない、という感覚が時代の価値観として共有されていたのかもしれない。
だが、それらも「もう」十年前の話である。リメイク・リバイバルブームの波に、人々は降り注ぐような倦怠を覚え、その不能感を忘却する術を身につけ始めている。誰もが、映画の新作ラインナップの半数以上が何かの作品のリメイクやリブートであることを当然のこととし、オリジナルの作品との関係について特に思いをめぐらすこともないままそれらを楽しもうとしている。複数の戦争や紛争状態も、その第一報は激震をもって迎えられ、続報に皆が固唾を呑んだが、延々と継続する中でホコリを被り、いつしかその重要性を忘れられていった。なぜなら、見守って無事を祈ることしかできないという不能感ばかりが募る問題に関して我々は、しばしば問題自体を忘れることでしか対処できないからだ。
しかし、それは本当に今日を生きるうえで誠実な態度だろうか?……などとしかつめらしく警鐘を鳴らし、反省することを読者に求めるつもりもない。「現実に冷(覚)めている」ことを突き詰めれば、自責や無力感に苛まれるだけである。なぜなら、真摯であること、すなわち直線的であることは絶望にも陥りやすく、パラノイア的で、救いを求めるあまりに迷信やデマに搦めとられる可能性があるからだ。そういった意味では危険ですらある。
これに抗する力として、批評はもっとも有効である。批評は解釈というかたちで複数の異なる視点から物事を眺め、判断する力を養う。その判断の力は、あるひとつの考え方に囚われそうな知性に常に新しい風を吹き込むだろう。もちろん、総合的な理解には眺めみることと注視すること、その両方が重要ではある。やはりバランスが肝心なのだ。
ここに集められた「Re」に関する言説はその全てが興味深く、知的好奇心を刺激しながら現実に新たな解釈と批評的視座を提供してくれるだろう。「Re」の時代である現代を考えるうえで良質な栄養となる、最新の書籍や作品を取り上げた十のコラム、そして現代の様々な「Re」の抱える問題と可能性を見極める七つの論考が収録された。蔓延する「Re」に対するアパシーでも、ペーソスでもない。どちらかといえばユーモアたっぷりに、それらに切り込む巧智の数々をご覧に入れたい。

エクリヲ vol.14 特集:Re: 再考
https://ecrito.booth.pm/items/4385048
Column
現代文化を再考するための10のRe: コラム
1. 柴崎祐二編著『シティポップとは何か』/Revival
2. The Caretaker『Everywhere at the end of time』/Remember
3. 加藤耕一『時がつくる建築』/Renovation
4. Midjourney Inc.「Midjourney」/Regeneration
5. 指差し作業員《ふくいちライブカメラを指さす》/Reflection
6. Jeff Potter『Cooking for Geeks:[第2 版]』/Recipe
7. 塚田有那、高橋ミレイ編著『RE-END』/Reend
8. 信田さよ子『家族と国家は共謀する』/Resilience
9. 三木那由他『会話を哲学する』/Retain
10. 桜庭一樹『少女を埋める』/Review Critique
論考
応援(Reinforce )と避難所( Refuge )――『プロジェクトセカイ』を通して見る現代の応援文化 /Reinforce, Refuge(横山 タスク)
アディクティヴな父――『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』におけるグリンデルバルドの秘密 /Reflexivity(勝田 悠紀)
Re-Verse 世界の再─詩化 /Reverse(楊 駿驍)
Re: Revengers――「Re」で読む『東京卍リベンジャーズ』 /Revenge, Regret, Respect, Retribution(高井 くらら)
冗長性について /Redundancy(山内 志朗)
「悪の愚かさ」への抵抗――「責任 Responsibility」の再考 /Responsibility(戸谷 洋志)
追想、あるいは偽物(レプリカ) /Reminiscence(横山 宏介)
特集外コンテンツ
Critique Book Review
『痙攣 Vol.01』、『痙攣 Vol.02』
『奇想同人音声評論誌 空耳』
【KEYWORD】
イマニュエル゠カント/イラスト/グレゴリー゠ベイトソン/ゲーム/コミュニケーション/シティポップ/ストレス/タイムリープ/メタバース/宇宙/推し/音楽/記憶/虚構/建築/考察/死/詩/視覚メディア/自動生成/資本主義/小説/書評/多様性/父/中毒/強さ/弱さ/哲学/認知/不良/文芸/松浦理英子/料理/倫理学/『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク 』/『ファンタスティック・ビーストとダンブルドアの秘密』/『三体』/『東京卍リベンジャーズ』