interview: エイドリアン・コーカー「アーティスト/レーベルオーナーの語る実験音楽/映像のための音楽、そして英国文化産業の危機」


Adrian Corkerはポストロックやエレクトロニカを独自に昇華したアートロックデュオCorker Conboyとして活躍後、シェルシやケージ作品を主軸に実験音楽のキュレーションを行い、自身のレーベルSN Variationsを設立した。レコーディング史に名を残す録音技師クリス・ワトソンらの参加とともに、先鋭的な作品をリリースし続けている。また映像のための作曲も続けており、Tim Roth主演のテレビドラマ「Tin Star : Liverpool」で透徹な世界観を持った音楽を手がけたことが話題を集めた。さらにはパンデミックやBrexitなどの影響を受ける英国の現在を聞く。

2021年2月 メールにて

取材・構成/大西 穣

SN Variationsとは?

――日本の読者に向けて、あなたの音楽史とレーベルのコンセプトを教えてください。

 1995年、サンプラーとアタリのゲームが流行した時代に、音楽を作り始めたんだ。マンチェスターの大学で知り合ったポール・コンボーイPaul Conboyと一緒に仕事をし、Canのイルミン・シュミットと共同作業していたジョノ・ポドモアJono Podomoreとも一緒に仕事をしていた頃だ。

 イギリス人監督のアントニア・バードAntonia Birdが私たちの最初の音楽を聞いて「Face」という映画のスコアを書いてほしいと頼まれ、すぐに映画音楽の世界に入っていった。その後も私たちは映画のための音楽を作り続け、自分たちの音楽プロジェクトも時々行っていた。仕事の中で多くを学んだね。最後に一緒に演奏したのはコーカー・コンボイCorker Conboyとしてで、それをとても気に入っていた。15年ほど前に一緒に仕事をしていたのをやめた時現場から離れて、大学で映画の作曲の講義をしていた。8、9年前くらいから徐々に自分の音楽を作り始めた。私は51歳なのだけれど、まだ始まったばかりのような気がするね。

 このレーベルはVillage Greenというレーベルで1枚のアルバムを作ったのがきっかけで、次の曲を作りたいと思い、オーナーに聞かせたが実験的すぎると言ってきた。曲は完成していて、リチャード・スケルトンRichard Skeltonがリミックスしたものが2枚あったので、オーナーの好意で自分でリリースすることになった。それがSN Variationsの発端となったんだ。最初のコンセプトは、私がロンドンで出会った演奏家たちによる、第二次世界大戦後のクラシック音楽のレパートリーを新録音でリリースすることだった。また、私は音を素材にした複数のギャラリーのショーをキュレーションしていたので、その一部をリリースしたいと思っていた。

 音楽を興味深く並列するアイディアもあったので、ジャチント・シェルシの曲に、昆虫のフィールドレコーディングの音楽という、クリス・ワトソンのレスポンスを添えた曲をリリースし、最後に本調という本曲尺八の曲をリリースした(当時私は本調を勉強していた)。それは私の教師であるJoe Browningによって演奏され、クリスによって録音された。その音楽の全てに瞑想的な質があって、音に注意を払うことが大切だと思っていた私にとって重要な意味を持っていた。Constructiveは昨年設立された新しい姉妹レーベルで、基本的な考え方としては、SN Variationsよりも少し幅広いスタイルでリリースされることになっていて、これまでのところ両プロジェクトとも、音楽についている映画や映像のプロジェクトがあるんだ。

Chris Watson

――あなたのレーベルのアーティストについて教えてください。クリス・ワトソンや、他にも思い入れのあるアーティストの話や、渡邊琢磨さんとのエピソードもあれば教えてください。

 最初にルーシー・レールトンLucy Railton と知り合い、彼女を通じてアイシャ・オラズバエワAisha Orazbayeva と知り合った。ピアニストのマーク・クヌープMaek Knoopや作曲家のローレンス・クレーンLaurence Craneなど、他の演奏家や作曲家とも知り合った。オリヴァー・リースOliver Leithとはロックダウンの前に、アイシャが私のリヴィングを使ってオリヴァーのために書いた曲を演奏してくれないかと頼んできたときに知り合った。去年の夏に何度も会って、彼がレーベルから何かリリースしたいかどうか聞いて、それがBalloonのレコードにつながった。Chrisに私が初めて会ったのは2014年にプライベートギャラリーで行ったショーのキュレーション中だった。 

with Lucy Railton (C) Mihai Cucu

 彼と彼の妻は私と同じシェフィールドという町の出身で、私にとって親しみを持てる何かが彼らにあった。その後、私たちはScelsiのレコード作品Invertebrate Harmonicsを制作し、ICAでのショーでは彼が1時間に及ぶインスタレーションを行い、昨年Notes From A Forest Floorとしてリリースした。また、ロンドンで制作されたアンサンブル作品をリバプールの様々な建物で再録音した「Tin Star : Liverpool」でも一緒に仕事をした。

 ジョージア・ロジャース Georgia Rodgersは、英国国立音楽院で彼女の音楽を初めて聴いたのがきっかけで、作品をリリースしたいとメールで連絡を取り始めた。作品がリリースされた後、ロンドンの公園でのロックダウン中にようやく初めて会うことができた。彼女がロックダウンの最中に作った、 窓の外の四季折々のトチの木の音を録音に、最近独学で習得したチェロとバイオリンを弾いている作品を、リリースしようとしているところだ。

 琢磨とはメールでコンタクトをし、彼のアルバムのリリースの話をしているが、今年私は新しいプロジェクトを探していて、偶然にも彼が送ってくれたものをとても気に入ったので、思いがけないタイミングになった。今ではスカイプやメールで延々とやりとりをして、5月の初めにリリースされる彼のアルバムをまとめているが、他でも一緒に取り組み始めている。