探す(コラム記事)
ALTER EGO
『ALTER EGO』は、ストーリーがついた性格診断だ。「旅人」と呼ばれるプレイヤーが「エス」という名の少女との対話=性格診断を重ねることで物語は進む。診断を進めるためには、歩く道のりで出会う名作小説の一節をタップしてポイントを貯めていく必要がある。小説の一節は「規範」と「衝動」の二極にまつわるもので、その二極はプレイヤーの性格診断の基準にもなっている。「名作」から抜粋された重い言葉は旅人の心に残り、診断時の選択を迷わせる。しかし、本来自己を知るためにあるはずの性格診断において、我々は迷ってもいいのだろうか?
性格診断は、多少のブレはあるものの「当たり」「外れ」があり、本人が「当たった」と思うような結果を示すものだ。つまり、本人が納得してしまえば、いくら分岐があろうと「別のルート」を想定し、他の結果を見る必要はない。しかし、『ALTER EGO』では、「プレイヤーの性格診断パート」と並行して進む「エスとの対話パート」における選択肢によってエスの性格も変化し、エンディングが三つに分岐する。はじめは二極どちらかのバッドエンドにしかならず、トゥルーエンドを見るにはもう一方のエンディングも見て、更に二極の中間の選択肢を選びながらもう一周しなければならない。一度診断結果が出て、プレイヤーの目的が達成されているのだから面倒な手順だ。だがゲームの「プレイヤー」というものは、トゥルーエンドを「探し」てしまうものだ。そうした時に「診断」というモチベーションを捨てずにプレイできるのは、プレイすることで迷い、また自分を「探す」旅人に戻れるからだ。
そうなれば、性格診断とはそもそも、自分を「探す」人が手を出すものであるとは考えられないだろうか。そのため、状況の少しの差で異なる選択肢を選びうる。それは言い換えると、人は自分を「探し」続けることで、どのようにでもなれるということだ。『ALTER EGO』は分岐し、結末が複数存在する「ゲーム」らしく、プレイヤー自身の可能性を示している。(高井くらら)
開発元 カラメルカラム
プラットフォーム iOS/Android
リリース年 2018
http://alterego.caracolu.com/
育てる(コラム記事)
中国式家長 / Chinese Parents
子を育てることは、子に育てられることでもある。育てることは一方的に子どもに与えることではない。育てるという行為の中で親としての承認も得て、逆に子によって親も育てられるからだ。ただ、これはあくまで理想形である。実際に中国では、詰め込み教育や、すべてを数値で測り、「生き残る」強者を目指す教育が一般的な傾向として存在する。言ってみれば、中国において、子育てはまるで一方的なゲームのような行為として行われている。
『中国式家長 / Chinese Parents』はそのような中国の子育ての現実を、改めてゲームとして批評的に表現している。目標を実現するために、一日何時間勉強させるか、どのようなことを勉強させるか、何点を取ったか、ほかの子どもとの競争力はどれほどか。これらはすべて数値化、合理化され、ゲームのシステムとして構築されている。さらに、このような過酷な生活の中での子どもの精神状態もまた数値化され、娯楽を適度に配置することによって調整しなければならない。つまり、子どもの笑顔もまたレベルアップのためにのみ必要とされているわけだ。親はそこから何も得ることができない。子どもは自分の代アバター理でしかなく、双方向性が欠けているからだ。『中国式家長 / Chinese Parents』は極度に純化した形で現実の子育て行為の単方向性を可視化する。そうすることによって、むしろそのような子育ての行為を否定し、その外部、すなわち双方向的な子育て=親育ての可能性を提示することに成功しているのである。(楊駿驍)
参考文献:山竹伸二『子育ての哲学』ちくま新書、2014年。
ジャンル 育成シミュレーション
開発元 墨魚玩遊戯
プラットフォーム PC
リリース年 2018
https://store.steampowered.com/app/736190/Chinese_Parents/
繋ぐ
Monument Valley
ペンローズの三角形やエッシャーのだまし絵などの不可能図形を、いわば「不可能空間」として再現したパズルゲーム。プレイヤーは三次元的に断絶した不可能空間を、エッシャー的遠近法を用いて画面という二次元において繋ぎ合わせることで道を開いていく。(福田正知)
開発元 ustwo games
プラットフォーム iOS/Android
リリース年 2014
https://apps.apple.com/jp/app/monument-valley/id728293409
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.ustwo.monumentvalley&hl=ja
Plug & Play
プラグを「繋ぐ」ことで進む、アニメーリリース年2007ションのようなゲーム。どことなく「人の繋がり」の物語にも見えるが、説明なくカット同士が「繋がる」ため、プレイヤー各自で想像して物語を繋ぐ必要がある。(高井くらら)
開発元 Mario von Rickenbach、 Michael Frei
プラットフォーム PC/iOS/Andoroid
リリース年 2015
https://store.steampowered.com/app/353560/
Portal
Valveの名作アクション。一つの場所に穴を開け、もう一つの場所に出口を作ることができるポータルガンを使い、謎の巨大企業Aperture Scienceの陰謀を暴く。シンプルに見えて柔軟な発想が求められるゲーム。(横山タスク)
開発元 Valve
プラットフォーム Xbox 360/PC
リリース年 2007
https://store.steampowered.com/app/400/Portal/
繋ぐ
Gorogoa(コラム記事)
一般的なゲームは現実の空間を限定付きで模倣(シミュレート)する。だからこそ、プレイヤーはその空間の中での動きを身体化し、物語を追体験したり、スポーツとして競ったりすることができる。しかしながら、ゲームにしか実現しえない空間性があるとすれば、それはどのようなものか、いかなる物語を実現するか。
『Gorogoa』というゲームはその空間性を追求した作品である。4つのタイルで画面は分割されており、プレイヤーがそれぞれのタイルを移動させたり、タイルの中に埋め込まれたレイヤーを行き来したりすることで、空間を繋ぎ、物語を進めていく。ここでは我々の経験的な空間認知が役に立たない。というのも、複数の空間が折り重なっており、その重なり方自体が我々の空間認知を異化するものだからだ。我々は複数のレイヤーをまたいだ可能な組み合わせを探索することで、物語の断片をたどる。空間の探索に対応するように、ゲームの物語もまさに探求の物語である。その物語もまた直線的に進むものではなく、複数の時間と空間の中を行きつ戻りつ、世界を繋ぎ直すものだ。
『Gorogoa』というゲームが実現する世界は、読むものでもなく、追体験するものでもなく、身体化することで同一化するものでもない。言ってみれば、このゲームが実現したのは、複雑に絡み合う複数の頭と尾を持つウロボロスのような、複数の時間と空間を行き来しながら、それらを繋いでいくことで成り立つ往還的な世界である。(楊駿驍)
開発元 Buried Signal
プラットフォーム PlayStation 4/Nintendo Switch/Xbox One
PC/iOS/Android
リリース年 2017
https://store.steampowered.com/app/557600/Gorogoa/
撮る
1979 Revolution: Black Friday
イラン革命を一人の写真家として追体験する。特定のタイミングでシャッターを切るとそれに近い構図の本物の写真が現れ、歴史的瞬間を目の当たりにする高揚を味わえるが、主人公は革命加担の咎で警察から拷問を受けてしまう。(横山タスク)
開発元 iNK Stories, N-Fusion Interactive
プラットフォーム PlayStation 4 Nintendo Switch Xbox One/PC iOS/Android
リリース年 2016
https://store.steampowered.com/app/388320/1979_Revolution_Black_Friday/
Outlast 2
妊婦怪死事件の謎を追いアリゾナの山村に向った主人公とその妻が乗るヘリが突然墜落。妻を捜す主人公は、この地で行われる異常な祭儀の深部に潜っていく。カメラの暗視や幻覚など視覚情報が幾度も入れ替わり、主人公が徐々に陥る狂気を追体験する。(横山タスク)
開発元 Red Barrels
プラットフォーム PlayStation 4 Xbox One/PC
リリース年 2017
https://store.steampowered.com/app/414700/Outlast_2/
LoveR
会話で親密度をあげつつ、女の子の写真を撮ることでコミュニケーションを取っていく恋愛ゲーム。コントローラーのジャイロセンサーでカメラを調整したり、マイクを使用してポーズや表情の変更をお願いしたりなど、感覚的な操作ができる。(横山タスク)
開発元 SweetOne (角川ゲームス)
プラットフォーム PlayStation 4
リリース年 2019
http://sweetone.jp/lover/
飛ぶ
Sky 星を紡ぐ子どもたち
星々が罪を犯し、思念体と化して地上に落ちた。それらを集め、再び空に帰すために、他の人と協力しながら空を飛びまわる。重力に圧迫され、風にあおられながらも飛ぶ体験は、普通のフライトシミュレーターと違い、むしろ飛ぶことの不可能性への挑戦として現れる。(楊駿驍)
開発元 thatgamecompany
プラットフォーム iOS/ tvOS(予定)/PC(予定) Andoroid(予定)
リリース年 2019
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.tgc.sky.android&hl=ja
https://apps.apple.com/jp/app/sky-%E6%98%9F%E3%82%92%E7%B4%A1%E3%81%90%E5%AD%90%E3%81%A9%E3%82%82%E3%81%9F%E3%81%A1/id1462117269
眺める
Mountain
いくつかの質問に答えると一つの山が生まれる。山は山肌をクリックすると反応を返したり、音を鳴らしたり、宇宙から見渡すこともできる小宇宙だ。やがて、盆栽を眺めるように山との精神的合一を果たすことができる瞑想的ゲーム。(福田正知)
開発元 David OReilly
プラットフォーム PC/iOS/Android
リリース年 2014
https://store.steampowered.com/app/313340/Mountain/
塗る
The Unfinished Swan
主人公の少女は亡くなった母の絵から消えた白鳥を探して旅に出る。最初は真っ白な画面だがクリックするとそこを中心として黒色が塗られ、それによって世界の輪郭を確認しながら進み、白鳥の残した黄色い足跡を追いかけていく。(横山タスク)
開発元 Giant Sparrow
プラットフォーム PlayStation 4 PlayStation 3 PlayStation Vita
リリース年 2012
https://store.playstation.com/ja-jp/product/JP9000-CUSA01100_00-00UNFINISHEDSWAN
ブロブ カラフルなきぼう(de Blob )
色を失った町を塗っていくゲーム。一般的に「塗る」ゲームはギミック解除のために色を指定されるが、このゲームではギミック以外の部分は自由に塗ることができ、プレイしながらどこかオリジナル感のある町を作ることができる。(高井くらら)
開発元 Blue Tongue Entertainment、 BlitWorks、 Universomo、 Helixe
プラットフォーム PlayStation 4/Nintendo Switch/Wii ニンテンドーDS/Xbox One/PC/iOS
リリース年 2008
https://www.wkb.jp/wp/deblob
登る
Celeste
トラウマを持った少女が険しい霊峰を登り、その過程で自分自身と向き合っていく。ジャンプ・壁に張り付く・空中へダッシュするだけの極めてシンプルな操作性だがパズル性の高いステージと的確なレベルデザインが高い評価を受けている。(横山タスク)
開発元 Matt Makes Games
プラットフォーム PlayStation 4 Nintendo Switch Xbox One/PC
リリース年 2018
http://celestegame.jp/
Getting Over It
ディオゲネスという男を操作してつるはしを使って山を登っていく。ディオゲネスとはギリシャの哲学者の名であり壺の中で生活した無欲の人だが、プレイヤーは不条理な失敗と向き合いつづけることで哲学的な自己問答に誘われる。(横山タスク)
開発元 Bennett Foddy
プラットフォーム PC/iOS/Android
リリース年 2017
https://store.steampowered.com/app/240720/Getting_Over_It_with_Bennett_Foddy/
働く
ヒューマン・リソース・マシーン
限られたコマンドを使い、できるだけ少ない手数で「上司に言われた条件で箱をコンベアに流す」。達成感が湧く演出などもなく、ステージが進んでも主人公が老いていくだけであり、プリミティブな意味での「働く」を体験できると言える。(高井くらら)
開発元 Tomorrow Corporation
プラットフォーム Nintendo Switch Wii U/PC/iOS/Android
リリース年 2015(日本では2017)
http://flyhighworks.heteml.jp/games/hrm/
跳ねる
Super Bunny Man
転がることで移動するウサギが、後ろ脚を伸ばす=跳ねることで障害物を越えたり、位置を微調整する物理演算系アクションゲーム。足があるならば普通は歩けるが、ウサギの「跳ねる」機能だけを残され、その不自由さやシュールさがゲーム実況者に人気となっている。(高井くらら)
開発元 Catobyte
プラットフォーム PC
リリース年 2017
https://store.steampowered.com/app/673750/Super_Bunny_Man/
編集する
The Republia Times
共和国の新聞を編集し反抗的な市民の国民意識発揚を目指す。紙面をどのように使うかが重要で、軍事上の勝利やテロリスト鎮圧の記事などを大きく載せ、合間にスポーツ記事などを載せながら、敗北の報などは載せないように気をつける。失敗すれば家族は処刑されてしまう。(横山タスク)
開発元 Lucas Pope
プラットフォーム ブラウザ
リリース年 2012
https://dukope.com/trt/play.html
増やす
Cookie Clicker
一人のおばあちゃんが焼くクッキーから始まり、効率化や機械を導入することで爆発的に増やし、それを元手に施設を増強しながらひたすら生産量を増やしていく。資本主義の精神の暗喩でありながら増やすこと自体の快楽を具象化したゲーム。(横山タスク)
開発元 Orteil
プラットフォーム ブラウザ/Android
リリース年 2013
https://play.google.com/store/apps/details?id=org.dashnet.cookieclicker&hl=ja
https://apps.apple.com/jp/app/%E3%82%AF%E3%83%83%E3%82%AD%E3%83%BC%E3%82%AF%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC-cookie-clickers/id703439482
Plague Inc.
いくつかの項目を組み合わせて病原菌を作製し、それに一つの国から感染させ人類の滅亡を目指す。感染国の気候や感染の経路を調整し、またワクチンによる撲滅などを回避する必要がある。(横山タスク)
開発元 Ndemic Creations
プラットフォーム iOS/Android
リリース年 2012
https://apps.apple.com/jp/app/plague-inc-%E4%BC%9D%E6%9F%93%E7%97%85%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E4%BC%9A%E7%A4%BE/id525818839
https://play.google.com/store/apps/details?id=com.miniclip.plagueinc&hl=ja
放置する(コラム記事)
放置少女~百花繚乱の萌姫たち~
『放置少女』の画面上では一見、よくあるRPGのように何人かの味方キャラが敵キャラと戦わされている。しかし、プレイヤーは個々のキャラに何ら指コマンド示を出すことはない。『放置少女』でプレイヤーに課せられた役割は、キャラクターを戦わせ続けるために「放置する」、放置していた間に累積された報酬を一気に手に入れるために時々ログインする、ただこれだけである。
RPGの醍醐味である戦闘を自動化してしまうとは、RPGの楽しさを全く無視していると思われるかもしれない。しかしこの「放置ゲーム」では、RPGの基本的な報酬システムに加え、プレイしていない時間にも報酬が得られることで、報酬がもたらすゲーム的快楽を過剰に体験できる。それゆえ、戦闘システムなど有っても無くても無関係なのだ。プレイしなければしない程、得られる快楽が大きくなる。このゲームデザインは逆説的でありながら革新的でもあるが、ここにはある種の危険性もある。
それは、プレイしていない時間にまでゲームが侵入し、ゲームがゲーム内だけで時間的に完結しなくなるということだ。プレイ中でない時間も含めた私たちの時間すべてが、ゲーム内の瞬間的快楽に貢献すべく、管理の対象となるのである。これに似たゲームとして、時間経過によって回復する「スタミナポイント」などのシステムで時間制限を設けるソーシャルゲームを思い浮かべるかもしれない。これもまた、非プレイ時間をプレイ時間に紐付けるゲームである。しかし、一般的なソーシャルゲームの醍醐味は、あくまでプレイ時間それ自体である。一方、『放置少女』に代表される放置ゲームは、非プレイ時間が長くなれば長くなるほど報酬=快楽が大きくなるという意味で、プレイ時間よりもむしろ非プレイ時間こそがゲーム経験を左右するという特徴がある。このように、ゲーム外の時間がゲーム経験のための管理対象となると、放置することによって管理される対象には、キャラクターだけでなくプレイヤー自身もまた含まれることになると言えるだろう。(福田正知)
ジャンル 美少女育成系戦国オートバトル
開発元 FightSong
プラットフォーム iOS/Android
リリース年 2017
http://hcsj.c4games.co.jp/
待つ(コラム記事)
Dota Auto Chess
バトルロワイアル系ゲームのブームが落ち着いたと思ったら、今度は「オートバトラー(オートチェス)系」ゲームがブームとなった。MOBA(マルチプレイヤーオンラインバトルアリーナ)系の代表作『DOTA 2』のModとして誕生した『Dota Auto Chess』から始まり、現在も類似ゲームが世に送り出されている。同作は駒を購入して場に配置することで駒を戦わせるゲームであり、戦闘中にプレイヤーの介入できる要素は極力省かれている。プレイヤーの代替であるアバターこそ存在するものの、プレイヤー自身は駒を「買う」「置く」そして戦闘の結果を「待つ」ことしかできない。そこにはアクション性もなければ、アバターのキャラクター性もない。こうした点から、同作はアクション性に富んだFPSやMOBAといったデジタルゲームの人気ジャンルから遠い存在であると言える。
そんな同作だが、プレイヤーとキャラクターの同期性を切り落としたことは注目に値する。同作では、プレイヤーは古代のアサシンにも、現代を生きるマッチョな考古学者にもなることができない。それどころか、『DOTA 2』では魅力的だったキャラクターを、『Dota Auto Chess』では操作することすら不可能だ。プレイヤーができるのは、ただ神の視点で駒を買い、配置することだけだ。そして、戦闘の結果を「待つ」時間は、プレイヤーとゲームの間にある壁を私たちに思い出させてくれる。プレイヤーはデバイスで入力するだけに過ぎず、モニターに映される戦況はプログラム上の処理に過ぎない。
こうして考えていくと、同作は「何かになる」ことに疲れたゲーマーたちのオアシスのようなものかもしれない。処理を「待つ」プレイヤーの在り様は、昨今のゲーマー像からはかけ離れているように思える。もっとも、負けたら奇声を発するのは同じなのだが……。(堀江くらは)
開発元 DrodoStudio
プラットフォーム PC
リリース年 2015
https://blog.dota2.com/?l=japanese(Mod)
見る(コラム記事)
The Tearoom
「ジャンプする」、敵を「倒す」、アイテムを「使う」。ゲームの動詞を考える際には、ゲームの世界に能動的に干渉する動詞が重視される。だが、それ以外のものは見落とされがちだ。
例えば「見る」。視線を動かさねば、敵を狙うのも周囲を探索するのもままならないが、「見る」という行動を我々はあまり意識しない。キャラクターの体を眺め回しても、NPCの私物を覗き見しても、何の反応も得られない。「見る」にリスクは伴わない。一人称視点のアドベンチャーゲームはよく「walking simulator」と揶揄されるが、これらのゲームの主格となる動詞は、「(周りを)眺める」や「(文書を)読む」などのはずだ。ゲームのステートに影響しない「見る」よりも、キャラクターの座標を変える「歩く」の方に目が行くわけだ。
Robert Yang氏の作品『The Tearoom』は、60年代のアメリカのオハイオ州のとある公衆便所を舞台とする。同性愛者に関する社会学研究をもとにしたゲームであり(*1)、プレイヤーはゲイとして、トイレの使用者をオーラルセックスに誘う。性行為の合意を得る手段は、視線だ。小便をしながら、こちらをチラ見する相手に視線を返す。視線を交わしていくうちに好感を持たれる。性的同意が得られたら、向こうは性器をぶら下げたまま近づき、フェラチオをさせてくれる。色目を使うが、対象を無遠慮に凝視すればいい、というわけではない。じっと見つめると怪しまれるし、嫌われる。適度に目を逸らして、メリハリをつけよう。60年代には、同性愛者を嵌めようとする警察もいる。窓の外に警察の気配を感じたら、いくら誘われても決して応じるな。ゲイセックスをしようと視線を送ったら逮捕さ れるからだ。
目は口ほどに物を言う。視線は好感も不興も買う。時には見てはいけないものもある。 本作には賞賛すべき点は多いが、「見つめる」という、他のゲームでは陽の当たらな いアクションに意義を持たせたことだけでも十分に印象に残る。 ( Jerry Chu)
*1:Yang, R (2017). “The Tearoom as a record of risky business.” Radiator Blog. https://www.blog.radiator.debacle.us/2017/06/the-tearoom-as-record -of-risky-business.html
開発元 Robert Yang
プラットフォーム PC
リリース年 2017
https://radiatoryang.itch.io/the-tearoom
巻き戻す
Life is Strange
ある日突然時間を巻き戻す力を得た主人公・マックスは、この力を使うことで、親友を悲劇から救おうと試みる。既存のタイムリープものを新しく解釈したストーリーテリングと、インターネットを活用した選択肢の「投票率」を可視化するシステムを特徴とする。(福田正知)
開発元 Dontnod Entertainment
プラットフォーム PlayStation 4 PlayStation 3 Xbox One/Xbox 360 PC/iOS/Android
リリース年 2015
https://www.jp.square-enix.com/lis/
メタる
The Stanley Parable
プレイヤーはスタンリーという男を操作してオフィスから脱出しようとする。ナレーションがプレイヤーのあらゆる行動に反応し、その意図や行動を嘲弄したり無意味だと語り、プレイヤーの脱出を阻む。(横山タスク)
開発元 Galactic Cafe
プラットフォーム PC
リリース年 2013
https://store.steampowered.com/app/221910/The_Stanley_Parable/
The Hex
殺人事件が予告されたバーに現れた6人の異なるゲームジャンルから来たキャラが犯人を推理する過程で自身の過去を回想するが、彼らは皆配信文化や裏技などゲームのメタ要素に翻弄されて自分のゲームを追放されたことが判明する。(横山タスク)
開発元 Daniel Mullins Games
プラットフォーム PC
リリース年 2018
https://store.steampowered.com/app/510420/The_Hex/
類推する
Telling Lies
キーワードを入力して動画を検索し、ここから新たなキーワードを見付けることで次々と新たな動画を探し、それらの断片を通して物語の核心に近づいてゆく。現実で情報を探す時のように、言語的な想像力が試される。(福田正知)
開発元 Sam Barlow、 Furious Bee Limited
プラットフォーム PC/iOS
リリース年 2019
https://store.steampowered.com/app/762830/Telling_Lies/
Return of the Obra Dinn
19世紀の保険調査員として60人の乗員が失踪した貨物船に乗り込み、死体の時間を巻き戻し、その死の瞬間の場面を再生することで全員の身元と死因を判明させていく。死の場面の中で別の人間の正体が判明することも多く、じっくりと考えることができる。(横山タスク)
開発元 Lucas Pope
プラットフォーム PlayStation 4 Nintendo Switch/Xbox One PC
リリース年 2018
https://store.steampowered.com/app/653530/Return_of_the_Obra_Dinn/
予知する
Katana ZERO
未来を予知する能力を持つ主人公を操り、暗殺者として任務を遂行してゆく。死んでも何度でもやり直すことができるというゲームの特質を、アクションと意表を突く演出に組み込んだ作品である。(福田正知)
開発元 Askiisoft
プラットフォーム Nintendo Switch/PC
リリース年 2019
https://store.steampowered.com/app/460950/Katana_ZERO/
予言者育成学園 Fortune Tellers Academy
プログラムされたゲーム内のできごとではなく、「架空世界」(プレイヤーにとっては現実世界)における未来のできごとの「予知」で報酬を得る。プレイヤーにとってはもはや「賭ける」に近いが、正解を重ねれば「予知ができる」ということにもなる。(高井くらら)
開発元 スクウェアエニックス
プラットフォーム iOS/Android
リリース年 2016(2018年サービス終了)
https://yogensha.jp/
※この記事は『エクリヲ vol.11』に掲載された記事を再掲載したものです。
エクリヲ vol.11 【特集 II インディーゲームと動詞】 《Interview》 『ALTER EGO』大野真樹 『Baba Is You』Arvi Teikari 『KIDS』Mario von Rickenbach & Michael Frei 『The Stanley Parable』/『The Beginner's Guide』Davey Wreden 『The Tearoom』Robert Yang 《Appendix》 インディーゲーム 動詞リスト 《Critique》 ルーカス・ホープと「楽しむ」ことの終わりに:横山 祐 動詞とパターン――ゲームとシミュレーションの関係をめぐって:松永 伸司