『エクリヲ vol.11』「ミュージック×ヴィデオ」特集に掲載された「MVエフェクティズム」では、ミュージックビデオで用いられる38つの技法をピックアップし、関連する作品を取り上げ解説している。MVは他の映像表現よりも、技術的な側面の影響を強く受ける特性を持つ。MVにはどのような方法があるのか、そして何が可能なのか。MVの歴史と共に考える必要があるだろう。本記事では誌面掲載の「MVエフェクティズム」(後編)を公開する。
★MVエフェクティズム(前編)はこちらから
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〈目次〉
- モーショングラフィックス――フライング・ロータス『MmmHmm』、ハドソン・モホーク『Joy Fantastic (feat. Olivier Daysoul)』、ケリー・モ―ラン『Love Birds, Night Birds, Devil-Birds』
- 線画アニメーション――アルバート・アモンズ『Boogie-Doodle』、マイケル・パターソン『Take On Me』、the chef cooks me『最新世界心心相印』
- ライブアクション・アニメーション(実写融合)――ローリング・ストーンズ『Harlem Shuffle』、ビョーク『I Miss You』、Is Tropical『The Greeks』
- デジタル白黒アニメーション――Zedd ft. Troye Sivan『Papercut (Grey remix)』、CONCORDE『Sons』、XXX『FLIGHT ATTENDANT』
- クロスカッティング――蓮沼執太『RAW TOWN』
- トランジション――R.E.M『Losing My Religion』
- ジャンプカット――水曜日のカンパネラ『シャクシャイン』
- コラージュ――Michael Jackson『Leave Me Alone』、Flying Lotus『Post Requisite』
- 移動撮影――Verve『Bitter Sweet Symphony』
- フォロー・パン――John Lennon『Imagine』、Eggglub『Culcul』
- クロースアップ――石崎ひゅーい『ピリオド』
- 俯瞰ショット――OK Go『I Won’t Let You Down』
- モノクロ――Radiohead『Lotus Flower』
- キアロスクーロ――Kendrick Lamar『HUMBLE.』
- ボカシ――Boris『My Neighbor Satan』
- タイムラプス――Orbital 『Straight Sun』、Vampire Weekend『A-Punk』、MIYAVI vs KREVA『STORNG』
- 逆モーション――The Pharcyde『Drop』、Cibo Matto『Sugar Water』
- フレーム・バイ・フレーム――Radiohead『There, There』、Oren Lavie『Her Morning Eleganc』
- ワイプ――Talking Heads『Road to Nowhere』、Spookey Ruben『These days are old』
- フォトロマン――Isis『In Fiction』
- 画面分割(スプリット・スクリーン)――℃-ute 『桃色スパークリング (Multi Ver.)』、Living Sisters『How Are You Doing?』
- 画面アスペクト比――FJAAK『I COULD NEVER LIVE WITHOUT YOU BY MY SIDE』
- オブジェクト――Björk『All is Full of Love』、Battles『Tonto』
- ミュージカル的方法――Michael Jackson『Bad』、Björk『it’s oh so quiet』
- 分身/増殖――The Chemical Brothers『Let Forever Be』、George Michael, Mary J. Blige『As』
- ユーザーエクスペリエンス――安室奈美恵 『Golden Touch』、lyrical school『RUN and RUN』
- VR――Foals『Mountain At My Gates』、Gorillaz『Saturnz Barz (Spirit House)360』
- 360°立体音響(バイノーラル・サウンド)――Little Glee Monster『360°×360° Ambisonics Video』、SETA『金魚鉢 with 佐橋』、やくしまるえつこ『放課後ディストラクション』
11. モーショングラフィックス
モーショングラフィックスの技術的発達は、文字通りヴィジュアルミュージック(視覚音楽)を実現する上で音楽と不可分な関係にある。モーフィング、3D、キネティックタイポグラフィーなど、モーショングラフィックスがもたらした技術の数々は新たな映像表現だけではなく、音楽と映像の完全なる融合を可能にしてきた。そして、モーショングラフィックスと音楽の関係を考える上で、絶対に素通りできないのはWarp Recordsの存在だ。エイフェックス・ツイン、ワン・オートリックス・ポイントネヴァー、スクエアプッシャー、フライング・ロータスなど、現在も第一線で活動する先鋭的なエレクトロ・アーティストを世に輩出し続けている同レーベルは、Warp Filmsという映像制作部門を一九九九年に設立するほど、映像にも力を入れている。
最近のMVを見ると、よりアーティストの世界観、あるいは楽曲イメージを表現するためモーショングラフィックスを用いている印象を受ける。ライヴでも独自のヴィジュアルミュージックを作り上げるフライング・ロータス『MmmHmm』では、高解像度のモーショングラフィックスでファンタジックな世界観が作られている。それだけではなく、ドット絵で作られたゲーム画面風の映像も使われており、フライング・ロータスの「オタク」趣向も反映されている。
かつてカラーミュージックでは色彩と音楽の同期が試みられたが、現在ではまた違ったかたちで色彩と音楽の融合が試みられているのではないか。ハドソン・モホーク『Joy Fantastic (feat. Olivier Daysoul)』やケリー・モ―ラン『Love Birds, Night Birds, Devil-Birds』では、モーショングラフィックスによる艶やかな色彩のオブジェクトが動く演出がなされているが、そこに明確な音との同期性は感じられない。『Joy Fantastic』は複数の登場人物によるダンスに呼応するようにオブジェクトが動く。『Love Birds, Night Birds, Devil-Birds』では、ハーブの旋律のように聴こえるモ―ランの流麗なピアノに合わせて、色彩のオブジェクトが揺らめき流動する。音と映像の完全な同期ではなく、アーティストの世界観とともに動くオブジェクトを作り上げるためのモーショングラフィックスを用いる方法は、Warpに限らず現在の主流でもあるのではないか。(佐久間義貴)
12. 線画アニメーション
「もっとも本質的で純粋なミュージックヴィデオは、音を可視化した波形映像である」と いう考え方に則れば、楽曲の即物的な描写性という点において、実写映像よりもアニメーシ ョンによるグラフィカルなリズム表現が長けていることは明らかだ(一方で実写映像は、曲 を構成する具体的な要素よりも、曲の印象を表現するときに大きな力を発揮する)。
この意味合いにおいて、ノーマン・マクラレンがダイレクトペインティングやカリグラフ ィによってリズムの躍動を表現した『色彩幻想』(一九四九)と同じ技法を用いて制作した アルバート・アモンズとの『Boogie-Doodle』(一九四一)は、アニメーテッドMVの最 も初期の、かつ優れた例と見なすことができるだろう。一般にアニメーテッドMVの初期の 例としては、オスカー・グリロによるリンダ・マッカートニーの『Seaside Woman』(一 九七八)や、キューカンバー・スタジオのエルビス・コステロ&ジ・アトラクションズ『A ccidents Will Happen』(一九七九)がよく挙げられるが、マクラレンによる『Boogie-D oodle』もまた、曲が始まる前の冒頭部分にクレジットが入るものの、曲先行の映像である こと、また曲を広める役割もこの映像が果したことから、「短編アニメーション作品」の枠にしばられない初期のアニメーテッドMVとして検討することができる。
『Boogie-Doodle』に見られる、フィルムを引っ掻いた「線」からなるカリグラフィ・ アニメーションは、線画アニメーションの一つの起源でもある。この手法における音波の波 線を思わせるスピード感のあるストロークは、曲のリズムや印象の視覚化としても機能し、 『Accidents Will Happen』のほか、アニメーション作家のマイケル・パターソンが携わ った『Take On Me』など、初期の重要なアニメーテッドMVを牽引してきた。
そしてデジタル作画が主流の今日において、取り上げたい線画アニメーテッドMVはAC部による the chef cooks me『最新世界心心相印』である。デジタル作画では「塗り」のために線と線をつなぎ、「やり直し」機能を利用するのが一般的なのに対し、このMVはiPad Proのタイムラプス機能を使用し、カリグラフィさながらの一回性、記録性を備えた、荒々しい筆致のアーカイブ化によってアニメーションを作り出している。カクカクとした動きが楽曲のシンセサイザーのコミカルなリズムとも共鳴し、「最新」の道具をアナログ的に駆使することで、曲のタイトルとも一致する不可思議な世界観を呈するMVとなっている。(松房子)
13. ライブアクション・アニメーション(実写融合)
近年、CMやMVにおいて、実写とアニメーションをレイヤー的に重ね合わせた作風が流 行している。これはアニメーションと実写の掛け合わせが新奇的で魅力的なヴィジュアルを 生むとともに、質の高いアニメーテッドMVの制作には膨大な資金と期間がかかるのに対し て、実写をベースとした映像にアニメーションエフェクトを乗せる方が手数は少なく済み、 またパートカラーのように一つの記号的な表現としてクリエイターを問わず発注しやすいと いった事情によると思われる。
そうした経緯はおいても、いかにもセル風のアニメーションと実写映像を組み合わせたヴィジュアルは古くから私たちを魅了してきた。この技法によるアニメーテッドMVの初期の 例といえば、ローリング・ストーンズ『Harlem Shuffle』(一九八六)である。このMV では、ロトスコープを含む実写とアニメーションの掛け合わせを得意とし、のちにライブア クション・アニメーション映画『クール・ワールド』を監督するラルフ・バクシと、ビョーク『I Miss You』(一九九七)でも同じくライブアクションを用いたアニメーテッドMVを 制作したジョン・クリクファルシが共同監督をしている。また、日本においては、クリヨウジによる森高千里『ミーハー』(一九八八)が早期の例として挙げられる。
最近のものでは、ディズニーキャラクターとコラボレーションし、古典的なライブアクシ ョン・アニメーションの雰囲気を活かした Kevin EisのMarshmello x DuckTales『Fly』 (二〇一八)や、Tumblr世代の画風によりアップデートされた印象のRobert Wallace のMerk『Hang』(二〇一八)などがある。
中でも注目したいのはフランスのアニメーションスクール、ゴブランの卒業生からなるア ニメーション集団「Seven」と映像チームのメガフォースによるIs Tropical『The Greeks』(二〇一一)である。このMVでは、水鉄砲で戦争ごっこに興じる子どもたちの実写映像 をベースに、血しぶきなど、彼らの戦禍、がセルライクなアニメーションエフェクトによって表現される。作家たち自ら大友克洋『AKIRA』(一九八八)からの影響を語る本作は、公開当時に当然議論を巻き起こしたが、子どもたちのあどけなさが禍々しいふるまいと紙一重なのを逆手に取り、歌詞とともに当時のシリア危機や根源的な闘争への欲求をあまりにシニカルに表現した留意すべきMVである。(松房子)
14. デジタル白黒アニメーション
デジタルアニメーテッドMVにおける「白黒」を技法として取り上げよう。アニメーションの技法としてはコマ撮りやカットアウトなど検討すべき手法がいくらもあるが、ここではカラーを用いることが可能なデジタルアニメーションの勃興期である近年に、むしろフィルム初期に通じる白黒表現が成果をあげていることに注目したい。
一般に、色を絞ってしまった方が配色に関する工程を減らすことができ、色彩設計や色調整の労力を他のワークに回せるという利点がある。効率や制作スピードは、楽曲のリリース計画と連動して作られるMVというメディアの特性の一つであり、複数のアニメーション作家と協働して一つのMVを作る際にも、白黒は統一感を保ちやすく編集がしやすい。また現在、MVは多くの場合、YouTubeやVimeoといった映像配信サイトを通じてスマートフォ ンやPCで見られるが、その際に背景となる赤や青といった配信会社のロゴカラーや現実空 間の色彩との対比によってむしろビビッドさを発揮し得る。こうした事情に、白黒技法が多用されている要因を見つけることができる。
しかしなんといってもデジタルアニメーションにおける白黒の一番の魅力は質感の表現、 そのヴァリエーションの豊かさである。それらがクラシカルなフィルム映像やデジタルビデ オの均一的なグレースケールのトーンと異なる印象を与えるのは、3DCGによるグラデー ションの粒子や光沢、デジタルペインティングのタッチによって新奇的なテクスチャーを有 するためである。例としてはZedd ft. Troye Sivan『Papercut (Grey remix)』(二〇一六)やCONCORDE『Sons』(二〇一四)が挙げられる。中でもMattis Dovierによる、韓国のヒップホップ・デュオXXXのためのいくつかのMVは、ピクセルやドット絵から始まったインターネット絵画やGIFの文脈を利用し、現代的なイメージを生み出している。一般に「動くこと」が一つの評価基準となるアニメーションにおいて、アニメーテッドMVは時間的制約により、ほとんど動かない。そのため多くのアニメーテッドMVは世界観やヴィジュアルの魅力を買われて採用される。Dovierによる『FLIGHT ATTENDANT』(二〇一六)や『LIQUOR』(二〇一七)はそのどちらもの特徴を突き詰めながら、ドット絵による数コマほどのGIFを想起させるゆえに、むしろよく動き、展開していくように感じられる。XXXの英語と韓国語が入り混じった歌詞同様、インダストリアルとラップが混交した楽曲とフランス人アーティスト(Dovierもまた『AKIRA』と、『ゼイリブ』からの影響を公言している)による無国籍的なキャラクター表現がシンクロしたMVが生み出されている。(松房子)
MVエフェクティズム 目録
15. クロスカッティング
異なる場所で同時に起きている複数の出来事を編集により繋ぐ方法。古典的な映画文法の一つであり、物語に臨場感などを与える効果をもつ。ストーリー仕立てのMVでも多用されるが、単に物語を紡ぐのではなく、楽曲とリズミカルに編集されることによって音楽的な相乗効果が生まれるだろう。
関連作品:蓮沼執太『RAW TOWN』
16. トランジション
カットとカットを繋ぐ切り替えに使用される効果のこと。クロスディゾルヴ、ブラックアウト(暗転)などがよく使用される。ミュージックヴィデオでは、通常の映像で使用されるよりも速いトランジションが使われることが多く、カット間のリズムを生み出している。また、カットの終わりにフラッシュが入って切り替わる、MV特有の表現手法もある。
関連作品:R.E.M『Losing My Religion』(Dir:Tarsem)
17. ジャンプカット
一連のカットの途中を飛ばして、時間の持続やショット間の連続性を無視して繋げる編集手法。MVでは、音楽が連続していることでつながりが担保されているため、リズムを重視してジャンプカットが多用される。
関連作品:水曜日のカンパネラ『シャクシャイン』(Dir:藤代雄一朗)
18. コラージュ
実写素材を切り貼りして生み出したヴィジュアルを用いて展開するカットアウト(切り絵アニメーション)技法。非現実な世界観により楽曲のイメージを増幅させる効果を持つ。
関連作品:Michael Jackson『Leave Me Alone』(Dir: Jim Blashfield)、Flying Lotus『Post Requisite』(Dir: Winston Hacking)
19. 移動撮影
レールや車両に搭載、クレーン、手持ちなど様々な方法でカメラを前後や左右に移動させながら撮影すること。歌いながら歩いているアーティストをフォロー撮影するものが多い。
関連作品:Verve「Bitter Sweet Symphony」(D:Walter A. Stern)
20. フォロー・パン
カメラを水平に横移動させる技法。被写体を静的な移動により追うことで、一方向的に進むなだらかな曲の印象を表現することができる。
関連作品:John Lennon『Imagine』(Dir: Zbigniew Rybczynski)、Eggglub『Culcul』(Dir: Anibal Bley)
21. クロースアップ
映画撮影において俳優の顔を接写および、あらゆる被写体への接写一般を指す技法用語。基本的には「顔」を撮ることからも明白なように、被写体の微細な表情の変化を捉えることが目的で、歌っているアーティストの口元を捉えるものも多いが、有機的な表情の変化が曲の構成を異化する効果が強い。
関連作品:石崎ひゅーい『ピリオド』(Dir: フカツマサカズ)
22. 俯瞰ショット
水平より高い位置に置いたカメラから、下方向を撮影したショットのこと。状況説明など客観性をもたせたい場合に使われることが多いアングル。ミュージカル映画監督ベスビー・バークレーの得意とした「バークレー・ショット」と呼ばれる真上からの俯瞰ショットは、被写体の配置による美しい構図を見せるものが多い。近年では、ドローンの空撮によって撮影されたものも多く使われる。
関連作品:OK Go『I Won’t Let You Down』(Dir:関和亮、ダミアン・クーラッシュ)
23. モノクロ
色彩のない白黒の映像における最大の利点は被写体の動きをみることだけに鑑賞者が集中できることだ。MVにおいては演奏者の動きを際立たせるような構成が多いが、特異な例としてはまるで画面の中で動いているものや人体が楽器の音を出しているかのように見せる作品もある。
関連作品:Radiohead『Lotus Flower』(Dir: Garth Jennings)
24. キアロスクーロ
元々はルネサンス期に登場し、バロック期に爆発的に普及した絵画技法。極端な明暗の強調によってモチーフの立体感を強調することを目的に発達したが、強烈なライティングで同様の効果を狙った映画や写真の技法にも同じ言葉が使われる。MVにおいてはクラシックな権威性をアーティストに付与するような効果が期待される。
関連作品:Kendrick Lamar『HUMBLE.』(Dir: DAVE MEYERS)
25. ボカシ
色や輪郭の境界線を曖昧にさせる技法。玉ボケを生じさせて、幻想的な背景を生み出すこともできる。ライティングと合わせれば「綺麗な」映像表現が可能となるだろう。他方では、被写体となるアーティストの輪郭さえもぼかして、背景との境界線も曖昧にした匿名性を強調したMVも存在する。PVとしてはタブーかもしれないが、このような映像表現にサイケデリックな音像が組み合わせると奇妙な視聴体験が得られるだろう。
関連作品:Boris『My Neighbor Satan』(Dir:fangsanalsatan & Ryuta Murayama)
26. タイムラプス
低速度、あるいは低い時間解像度で撮影されたものを間隔を詰めて通常再生することによって、高速で進行する映像技法。楽曲のタイム感とタイムラプスによって高速で推移する映像が組み合わさったとき、ダイナミックな時間感覚の位相をもたらすことができる。
関連作品:Orbital 『Straight Sun』、Vampire Weekend『A-Punk』(Dir: Garth Jennings)、MIYAVI vs KREVA『STORNG』(Dir:長添 雅嗣)
27. 逆モーション
撮影された映像の時間を逆方向にして再生すること。普段目にしているものと逆向きの動きをする被写体が、非現実感を生み、視聴者の感覚を狂わせる。歌っているところを逆再生にする場合は、口の動きを逆にしなければならないため、綿密な計画が必要となる。
関連作品:The Pharcyde『Drop』(Dir:Spike Jonze)、Cibo Matto『Sugar Water』(Dir: Michel Gondry)
28. フレーム・バイ・フレーム
1フレームごとに撮影した静止画を繋げることで映像を生み出す技法。1コマずつ撮影することから、コマ撮りとも呼ばれる。通常の動画撮影よりも長い時間がフレームとフレームの間に生じることから、実写撮影とは異なる印象の動きをもたらすことが特徴である。
関連作品:Radiohead『There, There』(Dir: Chris Hopewell)、Oren Lavie『Her Morning Eleganc』(Dir: Oren Lavie, Yuval Nathan, Merav Nathan)
29. ワイプ
フレーム内フレームの手法の中でも、メインフレームの左右どちらかの端に小さなフレームを据え、2フレームで異なる映像を流す技法。複数の場所・内容を同時に伝えるモンタージュや、画面分割の一種とも捉えられる。
関連作品:Talking Heads『Road to Nowhere』(Dir: David Byrne and Stephen R. Johnson)、Spookey Ruben『These days are old』(Dir: Spookey Ruben)
30. フォトロマン
静止画像を透過によって繋ぐ映像技法。モノクロームの素材が用いられることが多い。フレーム・バイ・フレームよりもゆっくりとした時間の流れを表現することができる。
関連作品:Isis『In Fiction』(Dir:Josh Graham)
31. 画面分割(スプリット・スクリーン)
一つの画面を複数に分割し同時にいくつもの映像を流す手法。一見奇をてらった手法のよういだが、そもそも音楽が元来複数の楽器、音とダンスといった複数のタイムラインが絡み合って同時進行するものであるため、この手法はMゴンドリーやメンバーそれぞれに焦点を分散したアイドルの楽曲でMVと驚くべき親和性を見せる。
関連作品:℃-ute 『桃色スパークリング (Multi Ver.)』、Living Sisters『How Are You Doing?』(Dir: Michel Gondry)
32. 画面アスペクト比
画面の幅と高さの比率のこと。現在使用されているスマートフォン、パソコンのモニター、テレビなどは16:9の比率が一般的である。コンピューターやスマートフォンの画面では、擬似的にシネマスコープサイズやスタンダードサイズ、instagramに影響を受けた1:1などのサイズで表示することができる。通常、映像は横長の比率のものが多いが、ミュージックビデオの視聴環境の一つとしてスマートフォンが一般的となった現在は、「縦型動画」も多く制作されている。画面アスペクト比は、時代や媒体によって異なるため、楽曲の支持する時代や世界観を表現するのに役立つ。
関連作品:FJAAK『I COULD NEVER LIVE WITHOUT YOU BY MY SIDE』(Dir: y: Raman Djafari, Daniel Almagor)
33. オブジェクト
MVの被写体として、ロボットなどの装置が多く登場する。メロディやリズムに合わせて装置が動くことで、音楽と映像の同期と、楽曲の世界観を提示を同時に、効果的に行うことができる。
関連作品:ビョーク「all is full of love」(Dir:クリス・カニンガム) 、battles「tonto」(Dir::United Visual Artists)
34. ミュージカル的方法
MVと映画の明確な境目は極めて曖昧だ。映画館誕生以前にヴォードヴィルの劇場でかけられた黎明期の映画は見世物としての歌や踊りと元来非常に近しい関係にあった。黎明期のMVもこれとよく似た状況にあったのではないか。『ウエストサイド物語』に着想を得た「BAD」をはじめとするマイケル・ジャクソンのいくつかの作品は歌、曲、物語を使って商業と美学の一つになった世界をMVを試みていた。
関連作品:Michael Jackson『Bad』(Dir: Richard Price)、Björk『it’s oh so quiet』(Dir: Spike Jonze)
35. 分身/増殖
一九二〇年代初期に開発された複数の小型映写機を備えるオプチカル・プリンターに始まり、モーション・コントロール・カメラを用いて、同一の被写体の異なる運動を一つのフレーム内に納める技法。非現実的な映像空間が魅力だが、同じコスチュームを身につけた複数のモデルを一つのカメラで撮影するといったアナログ的手段もある。
関連作品:The Chemical Brothers『Let Forever Be』(Dir: Michel Gondry)、George Michael, Mary J. Blige『As』(Dir: Andy Delaney, Monty Whitebloom)
36. ユーザーエクスペリエンス
視聴者のデバイスに関連した仕組みを伴う演出。MVの映像内で視聴者にPCやスマホといったモニターに触れることを促したり、日常的に使用しているアプリとの関連を想起させたりすることで、歌手やMV空間との繋がりを体感できるようにする手法。
関連作品:安室奈美恵 『Golden Touch』(Dir:川村真司)、lyrical school『RUN and RUN』(Dir:隈本遼平)
37. VR
VRゴーグルを装着し、がMVの画面内にある十字キーを操作することによって立体となった映像を360°ユーザーの本意で動かせる。音楽に限らず近年ではあらゆるエンターテイメントの制作物で用いられるインタラクティヴ装置であるが、音楽ありきのMVにとってもっともあるべき使用法が確立されているかは定かではない。
関連作品:Foals『Mountain At My Gates』(Dir:NABIL for United Realities)、Gorillaz『Saturnz Barz (Spirit House)360』
38. 360°立体音響(バイノーラル・サウンド)
全方向から音に包み込まれる体験のできるサウンドシステム。MVをスマホで視聴することが多いであろう現在では、その低解像度の音質(動画サイトの音質もたかが知れてはいる)に身体が適格化されてしまっているを意味する。しかし、そのような中で、ユーザーが向いている方向に合わせ、聴こえ方が全く異なる「Ambisonics」のような360°立体音響システムを用いてMVも制作されている。まさにスマホの利点を引き出したインタラクティヴな視聴体験と言えるだろう。
関連作品:Little Glee Monster『360°×360° Ambisonics Video』(Dir:渡邊課、SETA「金魚鉢 with 佐橋」”Kingyobachi with Sahashi”(Dir: 小林大祐)、やくしまるえつこ『放課後ディストラクション』(Dir: 山口崇司)
(No.15~No.38 作成:伊藤元晴・佐久間義貴・松房子・山本真亜子)
★MVエフェクティズム(前編)はこちらから ※この記事は『エクリヲ vol.11』に掲載された記事を再掲載したものです。
エクリヲ vol.11 【特集 I 聴覚と視覚の実験制作——ミュージック×ヴィデオ】 《Interview》 山田健人 音楽と映像の蜜月——MVが表現しうるもの 《Critique》 ミュージックヴィデオには何が表現されているのか——レンズ・オブジェクト・霊 荒川 徹 《Appendix》 ミュージックヴィデオ史 1920-2010s——聴覚と視覚をめぐる試み歴史 MVエフェクティヴ 《Critique》 アニメーテッドMV、第三の黄金時代——マイケル・パターソン『a-ha "Take On Me"』からAC部『Powder “New Tribe”』:松 房子 映画音響理論はどこまでミュージック・ヴィデオを語れるか――宇多田ヒカル『Goodbye Happiness』を例に:長門 洋平 誰のためのパフォーマンスなのか?——ミュージックヴィデオの現在:小林 雅明 なる身体になる―メシュガーMV論―:吉田 雅史
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