三宅唱インタビュー:連載「新時代の映像作家たち」


ラスト・ショットについて

――失敗を作品に内包するということは、『きみの鳥はうたえる』という物語のテーマにも関わる気がします。もしかしたらラストシーンで「僕」が「佐知子」を追いかけない方がきれいな終わり方になるのかもしれません。でも「僕」はある種の愚かな振る舞い(失敗)をして、映画は幕を下ろします。

三宅       あれは愚かですか。あれを言わないほうが愚かだと僕は思います。確かにね、あのまま声をかけないまま生きていくっていうのも一つの人生だとは思うし、それをどう価値判断するかは人それぞれだと思うけど。まあでも、愚かか、そうじゃないかはさておき、あのタイミングの間の悪さったらないよね(笑)。

――映画のラスト・ショットは形容しがたい「佐知子」の顔になっています。「佐知子」のショットで終わることは早い段階で決まっていたんですか。

三宅       小説の最後の一行が、全然シチュエーションは違いますが、今どこかにいるはずの佐知子がいったいどんな風にしているのかと、佐知子に思いを巡らす一行なんです1。小説では物理的にも心理的にも遠くに存在している佐知子の「イメージ」だったんですけど、映画では是非それが見たいと思った。とはいえ、「僕」とは違う場所に都合よく視点が移動するのも何か違う。それで、まさに「僕」の目の前に佐知子がいる状況を書きました。

©HAKODATE CINEMA IRIS

――別のインタビューで、『きみの鳥はうたえる』のラストからまた新しいものが始まるような感じがすると三宅さんが話されていたのが印象に残っています。失敗を内包することと、最後のシーンが始まりになることは関係があるのか聞いてみたいです。

三宅       失敗を内包するというより、失敗するためにはまずトライがあるわけですよね。トライしないことには失敗すらできないとよく言いますが。トライすることと何かが始まること、この2つがラストにはあると思います。

作品への刺激、あるいは新作『ワイルドツアー』(2019)について

――三宅さんは過去のインタビューで「アメリカ映画には最前線がある」と語り、アパトーやリンクレイター、トニー・スコット、国内では小森はるかを評価しています。現在、彼ら以外で注目している作家、あるいは気に入った作品があれば教えてください。また国内での年代の近い作家で高く評価している人はいますか。

三宅 映画監督よりも、ミュージシャン、芸人、漫画家、小説家、写真家、スポーツ選手、ダンサー、建築家、画家など、最近はほかのジャンルの方から刺激をもらうことが多いです。

20代はよく映画監督のインタビューなどを読んでいましたが、最近はサッカーの監督のものばかり面白く読んでいます。

――三宅さんの作品は文字通り「やくたたず」な人たちを描くことが多いように思います(『やくたたず』の高校生たち、『THE COCKPIT』の不定職者でもあるミュージシャンたち、『きみの鳥はうたえる』の「僕」と「静雄」など)。そのモティーフは三宅さんが観てきた映画の記憶とつながっているものなのでしょうか。もしそうなら、その記憶の元になっている「やくたたず」映画を教えて頂くことはできますか。

三宅 自分の映画の登場人物は、やくたたずではなく、彼らこそが真に役に立っている、あるいは立とうとしている、と考えています。僕にとってのヒーロー像です。重要なのは、何の役に立つのか、という「何の」の部分です。
映画からの記憶ではなく、生き方の問題です。クソみたいなものの役には立ってたまるか、という意味では、積極的に「やくたたず」でありたいと思っています。
あえて映画を挙げるなら、トニー・スコットの映画におけるデンゼル・ワシントンが演じる人物たちの「やくだちぶり」に心底憧れています。

――山口を舞台とした、来年公開予定の『ワイルドツアー』は地元の中高生とともに作った作品だと伺いました。演技経験の少ない俳優の起用ということでは『やくたたず』を想起します。またはすでに展示にかかっている『ワールドツアー』、両作で試みたことについて可能な範囲で聞かせて頂くことはできますか。

三宅 『ワイルドツアー』は、彼らのワイルドな部分、野生さや、彼らの周囲にある自然環境をどれだけ捉えられるか、という映画でした。結果的に、現時点での集大成のような映画になっている気がします。『ワールドツアー』は、僕が数年続けている「無言日記」というビデオダイアリー作品のゴージャス版です。複数人のビデオ日記を同時にみることで立ち上がる世界が体験できるような、マルチスクリーンのインスタレーション作品です。

〈註〉
1 「佐知子はそれをどこで知るだろうか、と僕は思った。」佐藤泰志「きみの鳥はうたえる」文藝、1981年、9月号

三宅唱(みやけ・しょう)
……1984年生まれ。北海道札幌市出身。一橋大学社会学部卒業、映画美学校フィクション・コース初等科修了。09年に短編『スパイの舌』 (08)が第5回シネアスト・オーガニゼーション・イン・大阪(CO2)エキシビション・オープンコンペ部門にて最優秀賞を受賞。初長編作品『やくたたず』(10)を発表後、12年に劇場公開第1作『Playback』を監督。同作は第65回ロカルノ国際映画祭インターナショナル・コンペティション部門に正式出品されたほか、第27高崎映画祭新進監督グランプリ、第22回日本映画プロフェッショナル大賞新人監督賞を受賞するなど話題を呼んだ。14年には『きみの鳥はうたえる』にも出演したOMSBやHi’Specと、THE OTOGIBANASHI’SのBimたちが新曲を完成させるまでの2日間を追ったドキュメンタリー『THE COCKPIT』を発表。第37回国際ドキュメンタリー映画祭シネマ・デュ・レエル新人監督部門に正式出品されたほか、第15回ニッポン・コネクションではニッポン・ビジョンズ部門審査員賞を受賞した。また17年には、時代劇専門チャンネル・日本映画専門チャンネルのオリジナル作品『密使と番人』で初の時代劇に挑戦。また18年には、山口情報芸術センター(YCAM)にてビデオインスタレーション作品「ワールドツアー」、地元の中高生らと共作した映画『ワイルドツアー』を監督(19年公開予定)。その他の作品に、ビデオダイアリー「無言日記」シリーズ(14~)、建築家・鈴木了二との共同監督作品『物質試行58 A RETURN OF BRUNO TAUT 2016』(16)などがある。

〈作品情報〉
『きみの鳥はうたえる』
9月 1日(土)より新宿武蔵野館、渋谷ユーロスペスほかロードショー!以降全国順次公開
(8月 25日(土) より函館シネマアイリス先行公開)

彼らは夜に生きる――『きみの鳥はうたえる』論
■連載「新時代の映像作家たち」バックナンバー