片山慎三インタビュー(『岬の兄妹』):連載「新時代の映像作家たち」


「岬」を舞台とする意味

『岬の兄妹』(C)SHINZO KATAYAMA

 

 

――『岬の兄妹』では港町のなかの一年間が映し出されています。撮影も実際に一年強かけたそうですが、最初はどのシーンから撮影を始めたのでしょうか。

片山 最初は冒頭に出てくる、良夫が真理子を歩いて探しているシーンを撮りました。その次に撮ったのが、真理子が見つかった後のシーンだったはずです。最初の方はふたりがどうしたら兄妹に見えるかというところで、テイクを重ねましたね。

――舞台を岬にするというのは脚本の段階から決めていましたか。『岬の兄妹』では岬のある町のなかに二人がいるのをやや引いて映すショットが多いように感じました。岬のなかにいるふたりの全身の姿が、町の存在感ごと映し出されているように思います。

片山 岬を舞台にするのは決めていました。以前、ある映画のパイロット版で岬を撮ったとき、景色がいいなと感じていて。

 また、画のサイズについては、すごく意識しました。アップで撮るよりも全身を映して見せていきたいと思ったんです。土地を映すのもそうですが、やっぱり「肉体」を撮りたかったんですね。全体が映ってて、動いてて、というのを見せないとだめだなと思ったんです。役者の顔の映画じゃないというのがあって。たたずまいとか体とかが映ってないとだめだと。

――それは「障碍」がテーマだからということもあるのでしょうか。

片山 それもありますし、自分自身もそういうのが好きだからというのもあります。これから撮りたいと思う作品も、サイズ感的にはそうなりそう。今の日本の映画って、アップを撮りすぎなんですよね。タレントを撮っているという感じしかしない。全身で芝居していても、顔のまわりしか撮っていなかったりして、それが助監督をやっていて不服だったんです。

――先ほど、岬はきれいだから採用されたという話がありましたけど、分水嶺と言いますか、海と陸との間に留まらず、善と悪との間といった、象徴的な意味合いもあるのかなと思いました。

片山 そうですね。ぎりぎりの線にいて、「落ちたら危ない」ということはイメージして作っていました。あとは、場所に困ったらとりあえず海辺に立たせとけ、みたいなところもありましたね(笑)。

――プールでの売春のシーンは、どこで撮られたのでしょうか。

片山 三浦半島にある、旧三崎中学校です。いまは廃校になっていて、学校のプールは使われていなかったんですね。場所を探す過程でたまたまプールを見せてもらって、そうしたらすごいそれが良くて。台本では最初公園という設定だったんですけど、プールに書き直しました。

――プールでは、良夫が窮地のところをすごい手段を使って切り抜けますね。どういう発想で……。

片山 それしかないと思ったんです。体格では絶対勝てないじゃないですか。あのままじゃ死んじゃうんで、どうクリアさせようかと思ったんですね。そしたらウンコしかないなと。戦国時代の戦法では普通に用いられていて、たとえば攻城戦で、城を登ってくる兵に浴びせたりもしていたようです。それをどこかで読んだのを思い出して入れました。ウンコの制作時間は、8時間くらいでした。

『岬の兄妹』(C)SHINZO KATAYAMA

兄妹の関係性と脚本の妙

――脚本の話ですけど、もともとのあったものに、良夫の足の障碍という設定が足されているんですよね。そういう変更をなぜ加えられたんですか。

片山 兄にもハンディキャップを持たせたかったんです。持っていないと、兄の方が明らかに優位に立っていて、虐待しているような感じになってしまう。ちょっとでも感情移入を持たせた方がいいかなと、足が悪いというのを入れました。なおかつ、最初は吃音という設定も足していたんですよ。ただ、最初に吃音のシーンを撮ったら、これで最後まで行くのはきついかなと思ってやめたんです。それでまた撮り直して。

――松浦さんとは企画の段階から結構話をされていたんですか。

片山 そうですね。最初にあった脚本を持っていって、やりたいです、という感じで。

――真理子のキャラクターを作る上で、和田さんとはどれだけ話し合われたのですか。

片山 撮影の最初の際には、細かく打ち合わせをしました。また、浜辺のシーンとか、身体の動きを決めなければならないところは決めたんですけど、ただそこまで綿密というわけではないですね。それ以外はセリフも含め、アドリブが面白くなってきて。そこまで押さえつけずに、自由にやってもらったところも多いですね。

 参考にした作品としては、(重度の知的障害と自閉症を持った女性を追ったドキュメンタリーである)『ちづる』(2011年)があります。真理子のキャラクターは、ほとんどちづるちゃんからヒントを得ていますね。首から下げている人形とかは、特に大きなものですね。あとは話し方なども。

――足の悪い設定は印象的でした。真理子は坂道でチラシを配るシーンで駆け上がっていきますけど、良夫は足が悪くて、なかなか追いつけない。それを見ると真理子の方が、良夫を導いているようにも見えます。だから、二人の間に格差はあまりなく、実はほとんど対等なのではないかと思いました。

片山 あのシーンは確かにそういう風にも見えますよね。

 本作では兄と妹という設定でしたけど、双子でもいいんじゃないかと思うくらい。お互い足りない部分を補いながらというか、そういう意味ではいいコンビネーションだなと思います。

――エピソードの呼応も緻密だと思いました。中村(祐太郎:真理子の客役)さんは自分が生まれるときの話(「出たくない」と胎内で逃げ回っていた)をしますけど、のちに真理子が堕胎するときの産科医の、「逃げないで」という台詞。そういう風に伏線を回収するのかと思いました。

片山 それはけっこう無理やりで、わかりづらいと言われるかなとも思ったんですけど、そう言っていただけるのであれば嬉しいです。

――「障碍」というテーマをすごく有効利用していると思います。道路でふたりがもみ合うシーンがあるじゃないですか。あそこで真理子が叫び声を出します。普通の人であれば、自分の感情をある程度言葉にすると思うんです。しかしあそこではしないことで、解釈の多様性、また声の原初的な力が生まれているなと思いました。

片山 もっとさらっとやるつもりではあったんですけど、芝居をやっていくと、その「さらっと」に自分の中で違和感を覚えたんです。そこで和田さんを追い詰めて、もっと叫んでと言ったら、あれくらいになった感じですね。僕自身も見ていて、すごい興奮したんです。あのシーンではカメラが最初引いていて、ぐっと寄っていきますよね。最初寄るつもりはなかったですけど、途中で「寄って」と思わず声をかけて、カメラを手持ちで動かせたんです。だからすごくぶれているんですけど、そのまま使っています。

――それは再度、撮り直そうとは思われなかったんですか。

片山 思わなかったですね。まったくの偶然ではないけど、あの時に出た芝居が良かったので。

今後の展望について

――小説とか漫画を題材に、映画を作りたいとは思われますか。

片山 オリジナルをやりたいと思う一方で、原作ものにももちろん興味はあります。日本に限らず、海外の原作でも面白いものがあれば。ただ、エンタメに寄り過ぎていないような、何かしらの社会性があったほうがいいとは思います。あとは実際に起きた事件や出来事を軸に、映画を作りたいというのはありますね。韓国では珍しくはないんですけど。

――今の同世代の監督、若手の監督で注目をされている方ではどなたがいらっしゃいますか。

片山 深田晃司さんですね。『淵に立つ』(2016年)はとても面白いと思います。それしか見てないんですけど(笑)。深田さんには直接会って話を聞いたことがあるんですけど、あまり宗教には興味がない、と言っていたのが印象的でした。興味はないけど映画で描かなければならないから勉強して、取り入れたと。そういう「引き」の視点が面白い。

――いまの日本映画にないものは何でしょうか。また、今後撮りたい作品が具体的にありましたら、お教えいただけますか。

片山 今の日本映画にないのは時間だと思います。制作費やキャストのスケジュールなどにより、本当に制作に時間がありません。今後はいかに時間をかけて制作できる体制を作っていくかということが自分自身の課題です。

 今後の作品についてはまだ具体的には決まっていませんが、ある実際に起きた事件をもとにした映画や、父と娘がある事件に巻き込まれていくサスペンス作品などを構想しています。(了)

〈プロフィール〉
片山慎三(かたやま・しんぞう)

1981年2月7日生まれ。大阪府出身。中村幻児監督主催の映像塾を卒業後、『TOKYO!』(08/オムニバス映画 ※ポン・ジュノ監督パート)、『母なる証明』(09/ポン・ジュノ監督)、また、『マイ・バック・ページ』(11/山下敦弘監督)、『苦役列車』(12/山下敦弘監督)、『味園ユニバース』(15/山下敦弘監督)、『花より男子ファイナル』(08/石井康晴監督)、『山形スクリーム』(09/竹中直人監督)などの作品に助監督として参加。監督作として「アカギ」第7話(15/BSスカパー)、青森の斜陽館で上映されているシュートムービーアニメーション『ニンゲン、シッカク』(17)などがある。また、現代アーティスト村上隆のアニメシリーズ『シックスハートプリンセス』の5話、6話、7話の脚本も担当している。

〈作品情報〉
『岬の兄妹』
【2018年/シネマスコープ/89分/5.1ch SURROUND SOUND】
3月1日(金)よりイオンシネマ板橋、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9ほか全国順次ロードショー

出演:

松浦祐也 和田光沙
北山雅康 中村祐太郎 岩谷健司 時任亜弓
ナガセケイ 松澤匠 芹澤興人 杉本安生
松本優夏 荒木次元 平田敬士 平岩輝海
日向峻彬 馬渕将太 保中良介 中園大雅
奥村アキラ 日方想 萱裕輔 中園さくら
春園幸宏 佐土原正紀 土田成明 谷口正浩
山本雅弘 ジャック 刈谷育子 内山知子
万徳寺あんり 市川宗二郎 橘秀樹 田口美貴
風祭ゆき(特別出演)

監督・製作・プロデューサー・編集・脚本:片山慎三
撮影:池田直矢 春木康輔 美術:松塚隆史
録音:日高成幸 西正義 大塚学 植田中 藤丸和徳 加藤大和
整音・効果:高島良太 メイク:外丸愛 金森麻里 前川泰之 渡邊紗悠里 辻咲織
衣装:百井豊 助監督:藤井琢也 斎藤和裕 岡部哲也 白石桃香 上別府僚 柴田祥
制作:和田大輔 村上寿弥 日方想 スチール:服部健太郎 医療指導:刈谷育子
音楽:髙位妃楊子 撮影助手:各務真司 熊谷美央
照明応援:大久保礼司 石川欣男 制作応援:原田耕治
録音助手:猪立山仁子 高須賀健吾 整音助手:鈴木一貴 美術協力:和田光沙
衣装協力:宮部幸 編集協力:片岡葉寿紀 題字:堀向恵翠

挿入歌   「WINTER WONDERLAND」
作曲:Bernard felix
作詞:Smith richard B Dick
歌:佐藤玖美  編曲:髙位妃楊子

公式サイト:ULM

配給:プレシディオ
配給協力:イオンエンターテイメント/ デジタルSKIPステーション
宣伝:太秦

宣伝協力:NEWCON ぴあ映画生活

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