Interview:Yaporigami『俊英Yaporigamiが更新するIDMの未来』


Yaporigami『We Dance Alone』(2019, Detroit Underground)

 

――それでは、最新作『We Dance Alone』についてお聞きします。

Y これはまず、Aphex Twinにインスパイアされて、メロディアスなアプローチを行ったセカンドアルバム『Saryu Sarva』(Symbolic Interaction, 2007)のアップデートしたヴァージョンになっています。そしてリズム面で新しいアプローチをしました。Jlinの6/8(eg.Unknown Tongues)、Venetian Snaresの7/8(eg.Eurocore MVP)を参照にしつつ、6/4にしました。

――最新作を聴いてみると、リズム的に複雑でだいぶ取りづらい。6/4でありながら、4/4でもとらえられそうな箇所があります。

Y 6/8、7/8は拍子が特殊であるからこそ、楽曲構造が限定されてしまう。それよりは自由だけど、変わっているのが6/4なんだと気付いた。これは僕の中でかなりの発見です。4/4に聴こえるというのなら、それはまさに狙い通りで罠に引っかかっていると言えますね(笑)。

――今回メロディー的、リフ的要素も練られていて、単純なループは少なく変奏が多くあり、細かい編集が施されています。

Y ループさせるにも仕掛けを作っていますね。トリックアートが好きで、エッシャーの絵だったり、人間の認識をごまかすような錯視。構造を追えば追っていくほどラビリンスに突入してトリップしてしまう感覚が好きなんです。

――さらに、Boards of CanadaやAphex Twinの要素が散りばめられていて、歴史と相対している、重層的なポップの要素があります。

Y 表層的なレベルではポップなんです。こんなマニアックな音楽を作っているのに、大きな層に届けたいという欲求がある。浅いレイヤーでもBoards of CanadaやAphex Twinは成立するものです。聖書と同じとツイー[1] [2] [3]しましたが、重層的に存在しているものを作りたい。流行の中でリリースするとすぐ消費される。自分の中でクラシックに位置づけされているもの、特に初期Warpのものは「タイムレス」。そこにあるレイヤー構造は重層的に成り立っている。そこに立ち返りながら、自分が作るんだったら「タイムリー」な要素がないと面白くない。そこで新しいリズムの要素を入れ矛盾した要素を合体させたかった。そしてこのような作品になりました。

――VJとも共演したり、MVを作るなど、映像ともよく合わせていますね。

Y オーディオ、ヴィジュアルセットのショーで呼ばれることが多くて、映像との絡みは純粋に攻撃力がアップする感じですね。例えばオウテカは映像とのコラボについて疑問に思っているらしく、真っ暗でライヴをやっているけれど、ヴィジュアルがあったほうが、自分は単純に破壊力が増すと感じます。特にオーディオにうまく反応できるタイプのVJとだと、相乗効果のレベルが、足し算ではなく掛け算のように感じられますね。

 MVという点では、Vimeo Staff Picksを4回(註:前述の『Sync Body』以外に『The Motion Paradox』 『Lilium』『Mimic』) 取っていて、日本の音楽家に限れば、現時点で1人だけなんじゃないかと自負しています。レーベルやライヴのオファーにつながっていますね。あと、CMやファッションショーの音楽なども手がけています。

――音楽の現状に対して、今狙っている、目標としているとしていることはなんでしょうか。

Y 音楽の現状は、インスタントで反知性的、快楽的なものの流れと、マニアックなものとの二極化が進んでいる現状があると考えています。かつて大きなカルチャーだったものはある程度の知性、かっこよさがあったけれど、今は現状解離していて、どっちのレイヤーにも届けられる作品が作れたらなと思います。解離してるからこそ、その両極をハイブリッドに持ってこれたら、それこそ最高だと思いますね。

 


 

Yu Miyashita

電子音楽家。独Mille Plateauxよりデビューアルバムを発表。その後国内に拠点を置くmAtterやSignal Dadaより作品をリリース。ミュージックビデオ”Mimic”は世界各国のフェスティバルで選出、ノミネート、上映され続けることとなる 。近年では現代美術家の塩田千春、建築家のAsif Khanのインスタレーション記録映像に楽曲提供、ファッションブランドViviano Sueのショー用音楽の制作も行う。ヴェネチアビエンナーレ2019にて上映されるJeremiah Mosese監督作品のサウンドトラックを担当予定。

Yaporigami

電子音楽家Yu Miyashitaによる別名義。代表的なミュージックビデオに”SyncBody”、”The Motion Paradox”、”Lilium”等がある。近年ではMTV International Identへの楽曲提供や、世界各国のフェスティバルへの継続的な出演を行なっている。


ヱクリヲ vol.7 
特集Ⅰ「音楽批評のオルタナティヴ」
●interview:佐々木敦  「音楽批評のジレンマ」」
●音楽批評の現在(リアル)を捉える――「音楽」批評家チャート 2000-2017
●音楽批評のアルシーヴ――オルタナティヴな音楽批評の書評20
●来るべき音楽批評を思考するためのライブラリー ほか多数の論考を掲載
特集Ⅱ「僕たちのジャンプ」