山中瑶子インタビュー(『あみこ』):連載「新時代の映像作家たち」


『あみこ』が描いたもの

――『あみこ』では一切、大人が出てきません。劇中のセリフでも、あみこやかなこはお母さんを軽んじる発言をしますよね。母親との関係性をなぜあのように描いたのでしょうか。

山中 幼少期から自分の母親のことを、わたしからすべてを奪っていく人だと思っていたので。教師とか、周りの大人が信用できない気持ちが大学に入ってからもずっとあって。結果『あみこ』でも特に大人が必要なかったから出てこないんです。……とにかく大人が嫌いでしたね。でももう大丈夫です、たぶん(笑)。

――お母さんへの反発心を具体的に聞いてもいいですか。

山中 お父さんが単身赴任で、ずっと二人暮らしだったんです。母親も働いていたので、基本的に鍵っ子でした。学校帰り、母が家にいないわずかな時間はテレビ見たり、好きなことができるんですけど帰ってきて車の音が聞こえてくると、サッと(テレビを見ていたことをばれないように消す)みたいな日々が6年ぐらい続いていて。(母の出身国である)中国は、日本と違って感情を素直に表に出すことが自然な国ですよね。母親は日本で大学の先生をしていたんですけど、学校や外では日本の風潮に沿わないといけないじゃないですか。同調圧力とかもあったんだと思います。、そのフラストレーションを家で発散できる相手がわたししかいないので、かなり厳しく管理されていました。

――山中さんが中国に留学されていたのはお母さんとの関係が理由でしたか。

山中 母親みたいな人には絶対になりたくないと思っていたんですけど、やっぱり似てくるというか。わたしも大人になってきて、母親の行動原理がわかるようになってきました。逆に母親のおかげで、思ってもいないことは言わない、無理に同調しないで生きてきたんです。去年「忖度」という言葉が流行りましたけど、そういう日本とわたしの母親、で考えたときに、圧倒的に母親のバックボーンの方がそそられるというか。だから、中国に行ってからは母親のことを好きになってきましたし、面白いし理解したいと思う。

――「忖度」という言葉は、『あみこ』の大きなテーマの一つでもある本当/嘘ということにつながってくるようにも思います。劇中、「嘘の群れ」という言葉を連呼する男や、「本当に愛し合っているなら踊ってみせてよ」、あるいはアオミ君との関係も最初は通じ合っていたように思えていたことが実はそうではなかったこと(嘘)が明らかになるという物語のようにも思います。

山中 そうですね……本質とは、みたいなことをずっと考えていて。なんだろう、生きている意味というか、生きていたら見えてくるものを見逃さずにいたいという思いがあって。あみこもそういう子で、「本当」に近づいていきたいという子だと思うんですよ。そういうキャラクターだと思いながら書いていました。

――アオミ君は最初はレディオへッドが好きだと言っていて、あみこと通じ合っていたはずなのに、実は最後に「俺、サンボマスターが好きだよ」と言う。そういう嘘や忖度みたいなものとあみこがぶつかりながら成長していく話と思いました。

山中 社会の嘘や忖度というのはそうかもしれません。でも、アオミ君に関して言えば彼は本当にレディオヘッドも良いと思ってるし、同時にそれよりもサンボマスターが好きなんですよ、きっと。あみこは想像力のある子ですが、それは全く見えていなかった。あと、サンボマスターの位置付けがちょっと誤解されそうなのですが、わたしはサンボマスターをよく歌いますし、好きです。まさかこんなにたくさんの人に観てもらえることになるとは思っていなかったので……(笑)。

――劇中のレディオへッド「ロータス・フラワー」の使い方はどこか記号的です。それは確信犯的にやった部分もあったんでしょうか。

山中  そうですね。だから最近の曲の「ロータスフラワー」を選んだのも確信犯的でした。あみこも、あんな感じだけど別にレディオヘッドのことをそんなに掘り下げてるわけじゃないんです。

『あみこ』(2017年、山中瑶子監督)

『あみこ』と「爆発」

――劇中ではあみこが食べるシーンが複数に渡ってややグロテスクに映し出されます。女性が食べる姿にフェティッシュがありますか。

山中  おいしそうに撮ろうという気持ちがなくて、わざと音とかも不快感を残しています。おいしそうなご飯が食卓いっぱいに出てくる映画がよくありますけど、私はそうじゃないのを撮ってみたいと思いました。

――レモンを食べるシーンでは性交が暗示されるような撮り方をされています。さきほど名前が上がったグリーナウェイの作品も食と性が結び付いています。

山中 グリーナウェイのそういう部分のこととかも考えてたんだと思います。あとレモンは梶井基次郎の「檸檬」(1925)が好きということもあって。

――梶井基次郎の「檸檬」も青年期の鬱々としたエネルギーの爆発を暗示する物語ですよね。『あみこ』ととてもよく似た側面があります。

山中  そうです、そういう感じ。あと撮影始まってみて気づいたんですけど、あみこ役の春原愛良はわたしが言ったことをなんでもやるんです。本当はレモンをあんなに大量に食べさせる予定はなかったんですけど、ストップかけるまで食べ続ける感じだったから、全部食べさせて全部撮りました。

――『あみこ』ではモノローグが多いですし、セリフに大きな魅力があります。あとは女の子同士の親密な関係性など、ある側面で山戸結希さんを想起させるものを感じました。山戸結希さん企画のオムニバス作品『21世紀の女の子』への参加も決まっていますが、影響を受けた部分はありますか。

山中  山戸監督の作品を初めて見たのは、『5つ数えれば君の夢』(2014) でした。確かわたしが高3のときに、知人から、なにやら東京で伝説を打ち立てた監督が松本(長野県)に来るらしい! みたいなことで誘われて、当時その頃の自主映画については疎かったので特に下調べもせずにとりあえず松本に見に行ったんです。映画も面白かったですし、アフタートークの山戸監督のちゃきちゃきした喋りを聞くのがとにかく楽しかったのを覚えてます。いくらでも聞いていられる、ことばの魔術師みたいで毎回圧倒されます。

 山戸監督は少女性を描くのに長けていますよね。私は少女性をないがしろにしているわけでは ないけど、そこをメインとするよりは人間の奥底にあるものを出そうとしているところがあるかもしれません。

――山戸結希さんの作品には処女のモティーフが通底している一方で、山中さんの性と結びつく食べるシーンがグロかったり、「このベッドでヤってんでしょ」みたいなセリフはたしかに全然違う趣向かもしれない。渋谷TSUTAYAのコーナー(「映画を志すひとに、今、観て欲しい作品」)で山中さんが選んでいる若松孝二監督の作品にはモテない性欲を持て余した男の主人公がよく出てきますが、その女性版のような印象を『あみこ』に受けるところもあります。

山中 なんでか分からないですが若松さんの映画にはすごく共感するんですよね(笑)。『人魚伝説』(1984年、池田敏春監督)とかATGに共感します。

――鬱々したものが「爆発」するみたいなテーマ――まさに『人魚伝説』とか若松さんの映画はそうだと思いますが、そういうものに惹かれるんですね。

山中  そうですね。最初は静謐な映画を撮りたかったんですけど、それでも静かに爆発させるつもりでしたし、そういうのを撮りたいと思います。

――『あみこ』のラストをあのように終わらせることになった決め手を教えてください。

山中 ラストカットをホームでの後ろ姿にするというのは、最初から決めていたんですよ。それは決まっていたんですけど、そこにいたるまでの終わらせ方がわからなくなってしまって(笑)、殴って終わらせました。暴力で解決です。

――あみこの拳に書いてある「P×U×R×E」に参照先はありますか。映画好きは『狩人の夜』(1955)を思い出すと思いますし、同時にHIPHOPのファッションの一つでもあると思いますが。

山中 最後なので、あれを思いついたのはクランクインの後でしたね。『狩人の夜』はまだ観ていないので、HIPHOPの方だと思います(笑)。

『あみこ』(2017年、山中瑶子監督)

『あみこ』への反応、今後の活動について

――海外での「あみこ」への反応を伺ってもいいですか。

山中  本当にいろんな人が感想を言いにきてくれました。90歳超えてるおじいちゃんには、日本の女性は我々のイメージからすると『あみこ』みたいではなくて、あんまり感情を表に出さない控えめなイメージがあるけど、今はそうじゃなくなったのかって聞かれて。けっこうどこの国でも自分たちのイメージしてる日本のイメージじゃないみたいな意見は多かったですね。
 あとはベルリンの大きな会場でのQ&Aで、男性に俺は全然好きじゃなかったって800人の前で言われて。どこが好きじゃなかったのかって聞いたら一つ一つのシーンをもっと見たいのに、ザクザク切るのがなんでかわからないみたいなことを言われました。

――『あみこ』はテンポ感がすごくいいですよね。ポップさやコメディタッチな要素が一切ない映画を山中さんが撮りたいとか、今後撮る可能性はありますか。

山中  あると思います。ユーモアに特別惹かれるというわけではなく、『あみこ』は編集が辛くて、自分が辛かったからポップにしていったのかなという部分があって。企画段階ではそうではなかったですし。ツァイ・ミンリャンとかロウ・イエも好きで、ポップじゃない方に憧れもあるんですが、今作っている「21世紀の女の子」のものもわりと『あみこ』っぽい作品になっていますね。5歳の女の子が主人公なんですけど。

――好きな監督についてもう少し聞かせてください。一番好きなのはエドワード・ヤンということでしたが、その他に影響を受けた作家はいますか。

山中  ハル・ハートリーも素晴らしい監督だと思いますし、ロマンティックですね。ニューヨークでの上映の時に、ハル・ハートリーのとこに行って、『あみこ』を渡したら、後日メールで、新鮮で正直で洞察に満ちていると言っていただけましたね。リンチとかも大好きだし。ヌーヴェル・ヴァーグもそうですね。

――最近の映画や、あるいは近い世代の作家で気になる映画があったら教えてください。

山中  諏訪敦彦監督の映画について最近よく考えます。『ユキとニナ』(2009)を高校生の時に見ていて、香港の映画祭に諏訪監督が審査員でいらしていたのですが、『ユキとニナ』しか観てないばかりに、あまりお話もできず……。その後、早稲田松竹で2ヶ月くらい前に特集をやってましたよね。そこで全部見て、もうすごい面白いじゃんと思って、諏訪さんの映画の作り方とか昔の記事を探して読んだりしていて、興味があります。諏訪さんは俳優さんと撮影の前にディスカッションをたくさんされているので、そういう作り方をしてみたいと思いましたね。

 あとは濱口竜介さんです。『PASSION』(2008)と『ハッピーアワー』(2015)しかまだ見れていないんですけど、『親密さ』(2012)を今度の特集で見るのが楽しみです。あの、『PASSION』で急に風呂場でキスするとこあるじゃないですか、ぞくぞくしちゃって、あの感覚が好きなんだと思うんです。これは『あみこ』のテーマのことなんですけれど、だんだん年取っていくと、なにごともルーティン化していって、新鮮さが薄れていくじゃないですか。それに抗う、突拍子もないことをしていくということを映画でしたいんだと思います。

――今後も期待しています。ありがとうございました!

山中瑶子(やまなか・ようこ)
1997年生まれ、長野県出身。初監督作品『あみこ』がPFFアワード2017で観客賞を受賞。20歳でベルリン国際映画祭に招待され、同映画祭の長編映画監督の最年少記録を更新。山戸結希プロデュースによるオムニバス作品『21世紀の女の子』に参加予定。

〈作品情報〉
『あみこ』
2017年/日本/66分
監督 山中瑶子
脚本 山中瑶子
撮影 加藤明日花、山中瑶子ほか
録音 岡崎友理恵
出演 春原愛良、大下ヒロト、峯尾麻衣子、長谷川愛悠、廣渡美鮎

※9/1よりポレポレ東中野にて連日レイトショー上映

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