特別対談:牧野貴×渡邊琢磨 映像音響の前線へ


 国際的に活躍する映像作家・芸術家で、音楽家とのコラボレーション経験も豊富な牧野貴。同じく国際的なネットワークを持つ映画音楽の作り手であり、近年自身も映画も手掛けた渡邊琢磨。共演歴がある二人の語る映像音響の現在地とは?

2020年4月11日 Skypeにて

取材・構成/大西常雨


©Ryo Mitamura

『Origin of the Dreams』の軌跡

──はじめに、二人が出会った経緯、また共演作品について教えてください。

渡邊琢磨(以下、渡邊) 私が牧野さんにオファーを出し、二〇一五年のアラバキロックフェスの、映像作品と音のコラボレーション企画 (註 :『渡邊琢磨 Piano Quintet × 牧野貴 with 染谷将太』)で共演したのが初めてですね。その後ライブ向けに複数の楽曲で構成されていた作品を、牧野さんが作った映像尺にあわせ、単一楽章二〇分の弦楽曲にまとめた公演に取り掛かりました。

牧野貴(以下、牧野) ロックフェスで上映するために映像作品を一つ作ったのですが、サウンドトラックをあとでつけて映画作品として残すことも当初から想定していました。琢磨さんがライヴバージョンを作ったあと手直しを重ねたものを作品としてまとめて、WWWで『Origin of the Dreams』として(二〇一六年三月に)ライブ演奏付きで上映 したんです。

──即興演奏家とのコラボレーションが多い牧野さんですが、このときは弦主体の音楽作品とのコラボでしたが、どのような感触を受けましたか?

牧野 まず、即興演奏が出来る人とコラボレーションをする時も事前に打ち合わせはします。自分の作品の構造を言葉で説明し、作品の目的などを音楽家と深く話し合っていくので、完全に即興でやることは実はあまり有りません。今までにロッテルダム国際映画祭Okkyung Leeや Dirk SerriesやFloris Vanhoofとライブをした時は完全に即興でしたが、それは例外的なものです。
 長い間自分のメインの創作活動が映画制作だったので、いつも先に「作品を作る」という考えがあります。なので一回限りのコラボレーションではなく、琢磨さんがやってくれたみたいに、作品として残せるクオリティーのものを準備してくれたとことが嬉しかったです。映像制作は何ヶ月も前に始めなきゃいけないので、すごく真摯に対応していただいたと思います。アラバキの後に、完全に作り直してましたね。コラボレーションを通じて、琢磨さんの映画との経験や思い入れがすごくよく伝わってきました。

渡邊 演奏はリアルタイムに変化させることも可能ですが、映像は固定化されたメディアです。本作は牧野さんの映像作品が先行して完成していたので、牧野さんに作曲過程でラフな音データを送るなどして、その都度、方向性などを確認していきました。どちらかが先行するというふうでもなく、その点でインタラクティブでとても有意義でした。

牧野 ミュージシャンとコラボレーションする際は、最近では映像もライブで出せるようになったのですが、二〇一六年あたりまでは映像を先に完成させる場合がほとんどでした。ライヴだけではなくて、映画作品を作るときは九五パーセント以上は映像を完成させてから、自分で音楽を作れるときは作って、作れないときは僕よりもよくできる人を探すという方法をとっていました。一番幸福なのは、ミュージシャンと話し合いながらサウンドラックを作っていくことです。話し過ぎてもいけないし、投げっぱなしにするのも危険ですから、とても難しい駆け引きではありますが、いろんな国の、いろんな世代の音楽家と場数を踏んできたおかげで、だんだんうまく出来るようになってきたと思います。
 二〇〇一年にイギリスのアニメーション映画監督のブラザーズ・クエイBrothers Quay(註:スティーブとティモシーの双子の兄弟。アニメーションや映画、舞台美術などの分野で幅広く活躍)に会いに行ったのも、映像と音楽の関係性について訊くのが目的の一つだったんです。どうしたらあのような素晴らしい映像と音楽の有機的な関係性を築けるのかを知りたかった。すると、「自分が大好きなミュージシャンと密に連絡をとって、彼らがある映像のフッテージを撮影したらそれをミュージシャンに送って曲を作って返していくやりとりを続けながら制作している」との事でした。その時彼らが共同制作していたミュージシャンはポーランドのLech Jankowskiというミュージシャンでした。クエイは彼の大ファンで、毎年ワルシャワで行われている音楽祭に彼の演奏を聴くために訪れていたそうです。その後クエイはシュトックハウゼンとコラボレーション(註: 『In Absentia』(二〇〇〇年))していましたね。

 その時から僕はミュージシャンと関わる時は、投げっぱなしにするのではなく、会話をしながら一緒に作り上げていきたいと思っていました。『Origin of the Dreams』ではそれが出来たかなと思っています。豊潤な体験でした。

牧野貴×渡邊琢磨『Origin of the Dreams』@WWW(2016年3月17日)