夢より深い覚醒を──五十嵐耕平論
犬ほど映画にとって不気味な存在はいない。 撮影現場でどれだけ人間が必死に物語を演じていようと、虚構を解さない犬にとってそこは日常と地続きの現実でしかない。その場にないはずのカメラを役者が見つめることは、映画では「第四…
犬ほど映画にとって不気味な存在はいない。 撮影現場でどれだけ人間が必死に物語を演じていようと、虚構を解さない犬にとってそこは日常と地続きの現実でしかない。その場にないはずのカメラを役者が見つめることは、映画では「第四…
香港旅行の予習としてウォン・カーウァイの映画を見返し、それが自分を香港に誘った大きな要因だったにもかかわらず、ほとんど役に立たないことに気づいて唖然としたことがある。いくら画面を見つめても、どういうわけか香港の街並みに…
トリレンマ【trilemma】 ① 三つの選言肢をもつものをいう。三刀論法 ②三者択一を迫られて窮地に追い込まれること 1.第一の三角形=トリレンマ 「努力は必ず報われる」という命題から本論を始めよう。 AKB48の…
「私はきっと忘れない、あの情熱の炎を」 ミア・ドーラン「夢みる道化」 「願い焦がれることが多くの人々を愚者にする」 オウィディウス『エロイード』 「青」の観念史――ロマンティック・ブルーを中心に 「青は魂…
そっくりであるというのは、愛にとって残酷な制度であり、しかもそれが、人を裏切る夢の定めなのである ――ロラン・バルト『明るい部屋』*1 行動の反復によってのみ偏在的傾向の普遍化は可能なのだ ――村上春樹『世界の終りとハー…
食事をして映画でも見ようと思った。さっきダウンタウンで、 庇に『パルプ・フィクション』のタイトルを掲げている館を見かけた。 食指が動くのは、あれだけだった。 エドワード・バンカー『ドッグ・イート・ドッグ』(199…
エジプトのピラミッドはその大きさで人々を圧倒し、ドバイのブルジュ・ハリファはその高さで人々を圧倒し、フロリダのディズニー・ワールドはその広さで人々を圧倒する。同様に、そのシンプルさで人々を圧倒するものがある。それが人々…
「人は後ろ向きに未来へ入っていく」 ポール・ヴァレリー 「この世のものは後ろ向きに見るとき、はじめて真に見える」 バルタザール・グラシアン プレリュード:秘数「3」から円環の魔法へ この『ラ・ラ・ランド』という魔術的な…
2017年1月に出版された、野中モモによる『デヴィッド・ボウイ —変幻するカルト・スター』は簡潔な筆致で、デヴィッド・ボウイにまつわる「出来事」を析出させています。ともすれば「わたしとデヴィッド・ボウイ」というような内…
いい作家はいつも同じ場所を、質と大きさの違う槌で叩く。音が変る。釘を大切にする。同じ槌ばかりだと結局釘の頭を潰すだけで少しも打込めない。ただうつろな音がするばかりだ。 ジャン・コクトー「職業の秘密」*1 「どう、十分硬く…